・・・――現に彼には、同席の大名に、あまりお煙管が見事だからちょいと拝見させて頂きたいと、云われた後では、のみなれた煙草の煙までがいつもより、一層快く、舌を刺戟するような気さえ、したのである。 二 斉広の持っている、・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・近時は鴎外とも疎縁となって、折々の会合で同席する位に過ぎなかったが、それでも憶出せば限りない追懐がある。平生往来しない仲でも、僅か二年か三年に一遍ぐらいしか会わないでも、昔し親しくした間柄は面と対った時にいい知れないなつかしさがある。滅多に・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 拙者が媒酌者を承諾するや直ぐ細川を呼びにやった、細川は直ぐ来た、其処で梅子嬢も一座し四人同席の上、老先生からあらためて細川に向い梅子嬢を許すことを語られ又梅子嬢の口から、父の処置に就いては少しも異議なく喜んで細川氏に嫁すべきを誓い、婚・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・富米野と云う男熊本にて見知りたるも来れり。同席なりし東も来り野並も来る。 こゝへ新に入り来りし二人連れはいずれ新婚旅行と見らるゝ御出立。すじ向いに座を構えたまうを帽の庇よりうかゞい奉れば、花の御かんばせすこし痩せたまいて時々小声に何をか・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・ 三 故坂本四方太氏とは夏目先生の千駄木町の家で時々同席したことがあり、また当時の「文章会」でも始終顔を合わせてはいたが、一度もその寓居をたずねたことはなかった。それにもかかわらず自分は同氏の住み家やその居室を少・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・図書の管理者などはどこでも学生には煙たがられると見えて、いつか同席したクナイペの席上における学生の卓上演説で冗談交じりにひどくこき下ろされていたが、当人は Sehrgemeiner Kerl などという尊称を捧げられても平気で一緒に騒いでい・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・凡そ男女交際の清濁は其気品の如何に関することにして、例えば支那主義の眼を以て見れば、西洋諸国の貴女紳士が共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・平民と同格なるはすなわち下落ならんといえども、旧主人なる華族と同席して平伏せざるは昇進なり。下落を嫌わば平民に遠ざかるべし、これを止むる者なし。昇進を願わば華族に交るべし、またこれを妨る者なし。これに遠ざかるもこれに交るも、果してその身に何・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・或は交際の都合に由りて余儀なく此輩と同席することもあらんには、礼儀を乱さず温顔以て之に接して侮ることなきと同時に、窃に其無教育破廉恥を憐むこそ慈悲の道なれ。要は唯其人の内部に立入ることを為さずして度外に捨置き、事情の許す限り之を近づけざるに・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・と贅沢になればいいんでしょう。それだけのことでしょう」と総括して、その上での批評が果して現代文学の貧困を救う何事かであり得るだろうか。「そうじゃない」と同席の本多秋五が反駁して発言している。「人間というものは、だんだん部分品になってゆくもの・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
出典:青空文庫