・・・一緒に依頼した共通の友人、菊地千秋君にも、その他の諸君にも、みんな同文のものを書いただけだ。君にだけ特別個人的に書けばよかったのであろうが、そういう時間がなかったことは前述の通りだ。あの依頼の手紙を書いて、君の気持を害う結果になろうとは夢に・・・ 太宰治 「虚構の春」
近年新聞紙の報道するところについて見るに、東亜の風雲はますます急となり、日支同文の邦家も善鄰の誼しみを訂めている遑がなくなったようである。かつてわたくしが年十九の秋、父母に従って上海に遊んだころのことを思い返すと、恍として隔世の思いが・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・ 日本は中国とは同文同字の国といわれ、地理的にも近いのに、たった一人のバックのような作家が生れなかったということはなぜであろうかと私たちを考えさせる。アメリカにミッションがあるが日本にはそれがないというばかりではあるまい。日本の昔ながら・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫