・・・あとで北海道生れの友人に、その事を言ったら、その友人は私の直観に敬服し、そのとおりだ、北海道は津軽海峡に依って、内地と地質的に分離されているのであって、むしろアジア大陸と地質的に同種なのである、といろいろの例証をして、くわしく説明してくれた・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・ このような人は単に自分の担任の建築や美術品のみならず、他の同種のものに対しても無感覚になる恐れがある。たとえばよその寺で狩野永徳の筆を見せられた時に「狩野永徳の筆」という声が直ちにこの人の目をおおい隠して、眼前の絵の代わりに自分の頭の・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・今までに見たいろいろの同種の映画のいろいろの部分が寄せ集められてできあがっているという感じである。しかしただ、ポウェルという男とゲーブルという男との接触から生じるいかにもきびきびした歯切れのいい意気といったようなものが全編を引きしめていて観・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかし、それは、植物が意識して集まって来るのではなくて、同じ環境がおのずから同種の生命を養う、と言ったほうがもっともらしいように思われるのである。 そうかと思うとたとえば、紫紅色の「つりふね草」は湿潤な水辺に多いが、これとよく似て黄色い・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・爆音も相当に強く明瞭に聞かれ、その音の性質は自分が八月四日に千が滝で聞いたものとほぼ同種のものであったらしい。噴煙の達した高さは目撃者の仰角の記憶と山への距離とから判断してやはり約十キロメートル程度であったものと推算される。おもしろいことに・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・ 同種の植物の分化の著しいことも相当なものである。夏休みに信州の高原に来て試みに植物図鑑などと引き合わせながら素人流に草花の世界をのぞいて見ても、形態がほとんど同じであって、しかも少しずつ違った特徴をもった植物の大家族といったようなもの・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・去年はこの翡翠の色をした薔薇の虫と同種と思われるものが躑躅にまでも蔓延した。もっともつつじのは色が少し黒ずんでいて、つつじの葉によく似た色をしているのが不思議であった。 何とかしてこの害虫を絶滅する方法はないものだろうかと思うだけで、専・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・ただ少なくも動物学上から見て同種な Homo Sapiens としての人間の世界の一部において任意の時代に発生した文化の産物のすべてのものが、時とともに拡散して行くのは、ちょうど水の中にたらした一滴のアルコホルの拡散して行く過程と、どこか類・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・次には前々句との関係による制約であって、前々句が海に関したものとかまた座敷に関したものであれば、それと同種のものは捨ててしまわなければならない。そこで材料は第二段の淘汰を受けることになる。次には前々句よりももっと前の句列いったいへの考慮であ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・之を要するに現代の新女優、給仕女、女店員、洋風女髪結のたぐいは、いずれも同じ趣味と同じ性行とを有する同種の新婦人である。 今銀座のカッフェーに憩い、仔細に給仕女の服装化粧を看るに、其の趣味の徹頭徹尾現代的なることは、恰当世流行の婦人雑誌・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫