・・・「僕の中学時代の同窓なんだ。」「これはいよいよ穏かじゃない。」 藤井はまた陽気な声を出した。「君は我々が知らない間に、その中学時代の同窓なるものと、花を折り柳に攀じ、――」「莫迦をいえ。僕があの女に会ったのは、大学病院へ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・一体この男には、篠田と云う同窓の友がありまして、いつでもその口から、足下もし折があって北陸道を漫遊したら、泊から訳はない、小川の温泉へ行って、柏屋と云うのに泊ってみろ、於雪と云って、根津や、鶯谷では見られない、田舎には珍らしい、佳い女が居る・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・自分の勉強をすること幾年であった結果、学問も段進んで来るし人にも段認められて来たので、いくらか手蔓も出来て、終に上京して、やはり立志篇的の苦辛の日を重ねつつ、大学にも入ることを得るに至ったので、それで同窓中では最年長者――どころではない、五・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・塾の同窓の生徒は狭い庭に傘をさしかけ、縁側に腰掛けなどしていた。 亡くなった青年が耶蘇信者であったということを、高瀬はその日初めて知った。黒い布を掛け、青い十字架をつけ、牡丹の造花を載せた棺の側には、桜井先生が司会者として立っていた。讃・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・その、あいつというのは、博士と高等学校、大学、ともにともに、机を並べて勉強して来た男なのですが、何かにつけて要領よく、いまは文部省の、立派な地位にいて、ときどき博士も、その、あいつと、同窓会などで顔を合せることがございまして、そのたびごとに・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ 一九〇一年、スイス滞在五年の後にチューリヒの公民権を得てやっと公職に就く資格が出来た。同窓の友グロスマンの周旋で特許局の技師となって、そこに一九〇二年から一九〇九年まで勤めていた。彼のような抽象に長じた理論家が極めて卑近な発明の審査を・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 昔の同窓で卒業後まもなく早世したS君に行き会った。昔のとおりの丸顔に昔のとおりのめがねをかけている。話をしかけたが、先方ではどうしても自分を思い出してくれない。他の同窓の名前を列挙してみても無効である。 浜べに近い、花崗石の岩盤で・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 高等学校時代のある年の元旦に二三の同窓といっしょに諸先生の家へ年始回りをしていたとき、ある先生の門前まで来ると連れの一人が立ち止まって妙な顔をすると思ったら突然仰向けにそりかえって門松に倒れかかった。そうしてそれなりに地面に寝てしまっ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・三 高等小学校時代の同窓に「緋縅」というあだ名をもった偉大な体躯の怪童がいた。今なら「甲状腺」などという異名がつけられるはずのが、当時の田舎力士の大男の名をもらっていたわけである。しかし相撲は上手でなく成績もあまりよくなかっ・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・ 第二学年の学年試験の終わったあとで、その時代にはほとんど常習となっていたように、試験をしくじった同郷同窓のために、先生がたの私宅へ押しかけて「点をもらう」ための運動委員が選ばれた時、自分もその一員にされてしまった。そうしてそのためにも・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
出典:青空文庫