・・・その孤独を嘆ずるわけでもなし、あくせくと針仕事やお洗濯をして、夜になると、その他人の家で、すやすやと安眠しているじゃないか、たいした度胸だ、君は女にも劣るね、人類の最下等のものだ、君だって僕だって全く同等だが、とにかく自分が、偉いやつという・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・それで乗客の感覚の上では、恰度かなりな不連続線の通過に遭遇したと同等な効果になるわけである。しかし、乗客はみな、そんな面倒なことなどは考えないで「ああ涼しい」という。科学的な客観的な言葉を用いたがる現代人は「空気がちがって来た」というのであ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ 写楽以外の古い人の絵では、人間の手はたとえば扇や煙管などと同等な、ほんの些細な付加物として取り扱われているように見える場合が多い。師宣や祐信などの絵に往々故意に手指を隠しているような構図のあるのを私は全く偶然とは思わない。清長などもこ・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・しかしずっと遠くなると、もうそれもきかなくなって、事実上は単に無限距離にある平面への投射像を見ていると同等である。たとえば歌舞伎座の正面二階から舞台を見るような場合、視像の深さはほとんどなくなっているはずであるが、われわれは俳優の運動によっ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・すなわち何もしなかったのと、実証的な見地からは同等になる。そういう人はなんでもわかっているが、ただ「人間は過誤の動物である」という事実だけを忘却しているのである。一方ではまた、大小方円の見さかいもつかないほどに頭が悪いおかげで大胆な実験をし・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・ある学者が記録し発表せずに終わった大発見というような実証のないものは新聞記事にはなっても科学界にとっては存在がないのと同等である。甲某は何も発表しないがしかしたいそうなえらい学者であるというようなうわさはやはり幽霊のようなものである。万人の・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・学位記というものは、云わば商売志願の若者が三年か五年の間ある商店で実務の習練を無事に勤め上げたという考査状と同等なものに過ぎない。学者の仕事は、それに終るのではなくて、実はそれから始まるのである。学位を取った日から勉強をやめてしまうような現・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・れ、ヒラキキ神社があるなどと言われるとちょっと迷わされるが、よくよく考えてみるとむしろカイモンが始めであろうとも考えられる節があり、千島のカイモンと同系と考えるほうがよさそうにも思われ、少なくも両方に同等の蓋然性がある。それでこれらもすべて・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・図書室などで喫煙を禁じるのは、喫煙家にとっては読書を禁じられると同等の効果を生じる。 先年胃をわずらった時に医者から煙草を止めた方がいいと云われた。「煙草も吸わないで生きていたってつまらないから止さない」と云ったら、「乱暴なことを云う男・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それで扇の動き方でその日の暑さを知ったというのは、雁行の乱るるを見て伏兵を知った名将と同等以上であるのかもしれない。しかしおそらくこれはすべての役者に昔からよく知られたきわめて平凡な事実であるかもしれない。そうだとしてそれを今頃気が付いたと・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
出典:青空文庫