・・・日本の芸術界は此の二氏の周旋を俟って、未曾て目にしたことのなかった美術の名作を目睹し、また未嘗て耳にした事のなかった歌謡音楽を聴き得たわけである。わが当代の芸術界は之がために如何なる薫化を蒙ったかはまだ之を審にすることができない。然し松方山・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・は封建的なものと、藤村などによって紹介されはじめていた近代ヨーロッパの文学にあらわれたロマンティシズムの影響とが珍しい調和をもってあらわれた一粒の露のような特色ある名作である。 明治も四十年代に入ったころ、平塚雷鳥などの青鞜社の運動があ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・しかしそのうまさというものも、内容の調子の低さにふさわしく紅葉時代硯友社の文脈を生きかえらせた物語体であり、天下の名作のようにいわれた谷崎潤一郎の「春琴抄」がひとしく句読点もない昔の物語風な文章の流麗さで持てはやされたことと思い合わせ、私は・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・という『文芸』の文章の中で、佐藤春夫氏は冒頭先ず「現代日本にもまだ芸術が残っていたのかというありがたい感激をしみじみと味わせる名作である」と荷風の「春水流の低徊趣味」が「主要な装飾要素になっている」文学精神の前に跪拝している。自分のその文章・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫