・・・のみならずおのおの独立の名称を有っている科学の分派、例えば物理とか化学とかいうものの中にまた色々の部門がおのおの非常な発達をしている。たとえ日進月歩の新知識を統括する方則や原理の数はそれほど増さないとしても、これによって概括せらるべき事実の・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ それだのに文学と科学という名称の対立のために、因襲的に二つの世界は截然と切り分けられて来た。文学者は科学の方法も事実も知らなくても少しもさしさわりはないと考えられ、科学者は文学の世界に片足をも入れるだけの係わりをもたないで済むものと思・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・の山の中から火山を拾い出し、それを活火山と消火山に分類し、あるいは形態的にコニーデ、トロイデ、アスピーテ等に区別することは地質学者のほうで完成されているとしても、おのおのの山には多くの場合に二つ以上の名称がありまた一つの火山系の各峰がそれぞ・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・その当時だれかから聞きかじったこのげじげじという名称が、子供心になんとなく強く深い印象を与えたものと思われる。 中六番町の家を引き払おうという二三日ぐらい前の夜半に盗賊がはいって、玄関わきの書生部屋の格子窓を切り破って侵入した。ちょうど・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・ 我邦では岡田博士に従って凍雨の名称の下に総括されているものの中にも種々の差別があって、その中には透明な小さい氷球や、ガラスの截片のような不規則な多角形をしたものや、円錐形や円柱形をしたものもある。氷球は全部透明なものもあるが内部に不透・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・ 雨のふり方だけでも実にいろいろさまざまの降り方があって、それを区別する名称がそれに応じて分化している点でも日本はおそらく世界じゅう随一ではないかと思う。試みに「春雨」「五月雨」「しぐれ」の適切な訳語を外国語に求めるとしたら相応な困惑を・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ねてから、これも道楽として、心がけている日本楽器の沿革に関する考証は自然に世界各地の楽器の比較に移って行く、その途中で、遠くかけ離れた異種民族の楽器が、その楽器としての本質においてのみならず、またその名称においても、一脈の連鎖によって互いに・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ さればカッフェーの創設者たる松山画伯にして、狡智に長けたること、若しかの博文館が二十年前に出版した書物の版権を、今更云々して賠償金を取立てるがように、カッフェーという名称を用いる都下の店に対して一軒一軒、賠償金を徴発していたら、今頃は・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ この放射作用と前に申した分化作用が合併して我以外のものを、単に我以外のものとしておかないで、これにいろいろな名称を与えて互に区別するようになります。例えば感覚的なものと超感覚的なものに分類する。その感覚的なものをまた眼で見る色や形、耳・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・鬼蛇の名称差支なかるべし。 また一種の主人あり。これを公務家と名づく。甚だしき遊蕩の沙汰は聞かれざれども、とかく物事の美大を悦び、衣服を美にし、器什を飾り、出るに車馬あり、居るに美宅あり。世間の交際を重んずるの名を以て、附合の機に乗ずれ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫