・・・学者もしくは思想家の学説なり思想なりが労働者の運命を向上的方向に導いていってくれるものであるとの、いわば迷信を持っていた。そしてそれは一見そう見えたに違いない。なぜならば、実行に先立って議論が戦わされねばならぬ時期にあっては、労働者は極端に・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・人性本然の向上的意力が、かくのごとき休止の状態に陥ることいよいよ深くいよいよ動かすべからずなった時、人はこの社会を称して文明の域に達したという。一史家が鉄のごとき断案を下して、「文明は保守的なり」といったのは、よく這般のいわゆる文明を冷評し・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・となると忽ち逍遥博士と交を訂し、続いて露伴、鴎外、万年、醒雪、臨風、嶺雲、洒竹、一葉、孤蝶、秋骨と、絶えず向上して若い新らしい知識に接触するに少しも油断がなかった。根柢ある学問はなかったが、不断の新傾向の聡明なる理解者であった。が、この学問・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ されば、聡明な母親は、子供のために、自からの向上を怠ってはならぬ。言うこと、なすことについて、深く反省する必要があります。たとえば、その一例として挙げれば、子供が友達と遊んでいたとする、その子供の様子が汚いからといって、また、その子供・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって、最も貴ぶべく、また正しいことです。しかし、戦争が果して、それであると言い得られるでありましょうか? 少年を持つ親として、このことに考え至る者は、私一・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・ 私は、この美に向上を感じ、愛のために戦わんとする精神は、理知そのものでもなければ、また主義そのものでもない。全く、詩的感激に他ならないと思うのです。 すべて、散文の裡に、若し、この詩的感激を見出さない記録があったなら、決してそれは・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・今日の文化が、兎も角もこゝまで至ったのには、この向上生活のいたした集積ともいうべきです。政治に依る強権は、一夜にして、社会の組織を一新することができるでありましょう。しかし、一夜に人間を改造することはできない。人間を改造するものは、良心の陶・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ 一方、人生の精神文化は、遅々として向上せず、大衆の趣味、理想は、依然として低くあるかぎり、たま/\良書が出版されても、その再版、三版は期し難いのであります。何人も知るごとく、必ずしもよく売れる本がいゝとはいわれない。大衆性を有するもの・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・幾度もいうように、精神的向上の情熱と織りまじった恋愛こそ青年学生のものでなければならぬのだ。 かようにして志と気魄とのある青年は、ややもすれば甘いものしか好むことを知らない娘たちに、どんな青年が真に愛するに価するかを啓蒙して、わが心にか・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・の功利的満足を与えんとはせずに、常に彼らを高め、導き、精神的法悦と文化的向上とに生きる高貴なる人格たらんことをすすめ、かくて理想的共同体を――究竟には聖衆倶会の地上天国を建設せんがために、自己を犠牲にして奔命する者、これこそまことの予言者で・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫