・・・果して日本の画家があの位の刺激に挑撥されて人工的に向上したとすれば、彼らは文部省の御蔭で腕が上がると同時に、同じく文部省の御蔭で頭が下がったので、一方からいうと気の毒なほど不見識な集合体だと評しなければならない。 余が某氏の言に疑を挟む・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・えたものとしてあるのだから、どうしてもこの模範通りにならなければならん、完全の域に進まなければならんと云う内部の刺激やら外部の鞭撻があるから、模倣という意味は離れますまいが、その代り生活全体としては、向上の精神に富んだ気概の強い邁往の勇を鼓・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ソヴェト同盟が搾り専門の社長、重役を工場から追っぱらったと同時に、監督とか世話役とか天くだりの役員を廃絶し、みんなが順ぐり互の仕事を監督し合い、技術を向上するよう励まし合ってゆくプロレタリアらしいやりかたが、この代議員というものに現われてい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・婦人が生産面により多く参加しつつあるということが、いきなり婦人の社会的条件の向上を意味しないことは明らかである。現代に処する女としての新しい義務は、今日欲する欲しないにかかわらず新しく増大され、拡大されつつある女の生活経験と、すくなからぬ犠・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・それらの運動は単純に家長的な立場から見られている女らしさの定義に反対するというだけではなくて、本当の女の心情の発育、表現、向上の欲求をも伴い、その可能を社会生活の条件のうちに増して行こうとするものであった。社会形成の推移の過程にあらわれて来・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・社会的活動への婦人の進出はめざましいし、その必要の意味も、個人的に社会的に加重されてきているのであるけれども、その一つの事実がとりもなおさず婦人としての生活条件を全般的に向上させているかといえば、そうであるという回答は得られまい。女としての・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・そうでなければ次ぎの進歩が分りかねるからであるが、昨年の夏、総持寺の管長の秋野孝道氏の禅の講話というのをふと見ていると、向上ということには進歩と退歩の二つがあって、進歩することだけでは向上にはならず、退歩を半面でしていなければ真の向上とはい・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・すべての開展や向上が、それから可能になって来るのです。 この「教養」は青春の歓楽を味わいつくす態度や、厳粛に自己を鞭うって行こうとする態度と必ずしも相容れないものではありません。人それぞれにその素質に従って、いずれの態度をとる事もできる・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・ 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上に何ら貢献するところがないだろう。物質主義はますます勢力を得るに相違ない。しかし断然たる反動は必ず起こらねばならぬ。我々は第二の Renaissance を期待する。新しい価値、自由・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・人間の向上はまじめなる努力を要する。仮面に精髄を抜き去ったる肉骸を覆うてごまかさんとするは醜の極みである。血なき大理石の像にも崇高と艶美はある。冷たきながらも血ある「理性権化」先生は蝦蟇と不景気を争う。この道徳の上に立つ教育主義は無垢なる天・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫