・・・低気圧が来る時には噴出が盛んになって麦藁帽くらい噴き上げるなどと話しました。それから小作人の住宅や牛小屋、豚小屋、糞堆まで見て歩きました。小作人らに一々アローと声をかけて、一言二言話していました。農家の建て方など古い昔のままだそうです。・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・鬼の国から吹き上げる風が石の壁の破れ目を通って小やかなカンテラを煽るからたださえ暗い室の天井も四隅も煤色の油煙で渦巻いて動いているように見える。幽かに聞えた歌の音は窖中にいる一人の声に相違ない。歌の主は腕を高くまくって、大きな斧を轆轤の砥石・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・みんなの声や、鉄の材料の触れ合う音は、下から風の吹き上げるときは、手にとるように聞こえました。ペンネン技師からはひっきりなしに、向こうの仕事の進み具合も知らせてよこし、ガスの圧力や山の形の変わりようも尋ねて来ました。それから三日の間は、はげ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
出典:青空文庫