・・・という和装木版刷りの書物があった。全体が七五調の歌謡体になっているので暗記しやすかった。そのさし絵の木版画に現われた西洋風景はおそらく自分の幼い頭にエキゾチズムの最初の種子を植え付けたものであったらしい。テヘラン、イスパハンといったようない・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・若い丸髷の下町式マダムが弁慶縞の上っぱりで、和装令嬢式近代娘を相手に、あでやかにつややかに活躍している。 またある日。 糸のような雨が白い空から降る。右手の車庫のトタン屋根に雀が二羽、一羽がちょんちょんと横飛びをして他の一羽に近よる・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ 女の風俗はカフェーの女給に似た和装と、酒場で見るような洋装とが多く、中には山の手の芸者そっくりの島田も交っている。服装のみならず、その容貌もまた東京の町のいずこにも見られるようなもので、即ち、看護婦、派出婦、下婢、女給、女車掌、女店員・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
日本服も洋服も、本ものなら負けず劣らず美しいからすきです。 自分がきるのでは、現在の自己の環境のために和装一方です。〔一九二五年一月〕 宮本百合子 「「洋装か和装か」への回答」
出典:青空文庫