・・・そのお授けになる運の善し悪しと云う事が。」「だって、授けて貰えばわかるじゃないか。善い運だとか、悪い運だとか。」「それが、どうも貴方がたには、ちとおわかりになり兼ねましょうて。」「私には運の善し悪しより、そう云う理窟の方がわから・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・自分は尺八のことにはまるで素人であるから、彼が吹くその曲の善し悪し、彼の技の巧拙はわからないけれども、心をこめて吹くその音色の脈々としてわれに迫る時、われ知らず凄動したのである。泣かんか、泣くにはあまりに悲哀深し、吹く彼れはそもそもなんの感・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・あのひと、ものの善し悪しがわからないのでございますのよ。」「そうだ。そうです。善いことと悪いことがさかさまなのです。」「いいえ。」顎をショオルに深く埋めてかすかに頸をふった。「はっきりさかさまなら、まだいいのでございます。目茶目茶な・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ しかし個人的には、たとえそれは自覚されないにしても、何かしら自ずから一定の標準をもっていて、それに当嵌めて口調の善し悪しを区別している事だけは否定し難い事実である。 それでもし各個人の標準を分析的に研究して、何等かの形でその要素と・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・その遣方の実際を見ないで、結果ばかりを見ていうのである。その遣方の善し悪しなどは見ないで、唯結果ばかり見て批評をする。それであの人は成功したとか失敗したとかいうけれども、私の成功というのはそういう単純な意味ではない。仮令その結果は失敗に終っ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫