・・・「実はあなたも御承知の通りこの度引越す事にきまりましたが、どうでしょう、向うはここよりも大分奇麗でかつ器具などもよほど上等にしますが、来ていただく訳には参りますまいか」「それは君の方で僕に是非来てくれと言うのなら……」「イエ是非といって御無・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・夫の常に愛玩する物は犬馬器具の微に至るまでも之を大切にするは妻たる者の情ならずや。況んや譬えんものもなき夫を産みたる至尊至親の老父母に於てをや。其保養を厚うし其感情を和らげ、仮初にも不愉快の年を発さしむることなきよう心を用う可し。殊に老人は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この銀盤は偶然だが、実際ある寺院で使っていたロオマ時代の器具であった。卓の上には物を書いた紙が一ぱいに散らばっていて、ほとんど空地が無い。それから給仕は来た時と同じように静かに謹んで跡へ戻って、書斎の戸を締めた。開いた本を閉じたほどの音もさ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・カン、鋳物、ガス溶接屋 二〇九名 第八工場 変圧器製造 六五〇名 第七工場 直流、交流発電キ 電キ機関車 五〇〇 第五工場 小型モーター セン風機 家庭器具 四五〇 第十一工場 製図、営繕・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・が、元の鋤へ逆転してもうどうしてもその原始的な器具をはなさず、「復活」に描かれているように地主トルストイを歎息させたのは何故であったろうか? 大地主とその支配人の首枷の下で、農民は、耕作機が彼等を幸福にする道具ではないことを、本能でかぎ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 一つは、電気器具販売店、一つは、仏蘭西香水の売店。 どちらも一階の往来に面した処にあった。真鍮の太い手摺にぴったりよって立ち、私は、ぼんやり空想の世界に溶け込む。 ああ、あの高貴そうな金唐草の頸長瓶に湛えられている、とろりとし・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・機械器具製造では男子二一パーセント増しに対して女子三〇パーセントという大幅の増加がある。精巧工業では男子一六パーセント増に対して女子六一パーセント増、特に造船業・運搬用具製造業などでは男子三五パーセント増に対して女子一〇七パーセント増。二年・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ところへひどくゆれて来、ガチャガチャ器具のこわれる音がする。父上は、多分客や Waiter があわてて皿や何かをこわしたのだろうと思うと二度目のがかなりつよく来た。これは少しあぶないと、地平室の天井を注目した。クラックが行くと一大事逃げなけ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・若し床の間の置物のような物を美人としたら、るんは調法に出来た器具のような物であろう。体格が好く、押出しが立派で、それで目から鼻へ抜けるように賢く、いつでもぼんやりして手を明けていると云うことがない。顔も觀骨が稍出張っているのが疵であるが、眉・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫