・・・将軍の御齢は三十を一つも越えたもうか、二郎に比ぶれば四つばかりの兄上と見奉りぬ。神戸なる某商館の立者とはかねてひそかに聞き込みいたれど、かくまでにドル臭き方とは思わざりし。ドル臭しとは黄金の力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・此外を回りて四つの河あり。北より南へ富士河、西より東へ早河、此は後也。前に西より東へ波木井河の中に一つの滝あり、身延河と名づけたり。中天竺の鷲峰を此処に移せるか。はた又漢土の天台山の来れるかと覚ゆ。此の四山四河の中に手の広さ程の平らかなる処・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・独房の四つの壁はムキ出しのコンクリートなので、それが殷々とこもって響き渡った。――口笛が聞える。別な方からは、大胆な歌声が起る。 俺は起き抜けに足踏みをし、壁をたゝいた。顔はホテり、眼には涙が浮かんできた。そして知らないうちに肩を振り、・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・つりと浮気はせぬと砂糖八分の申し開き厭気というも実は未練窓の戸開けて今鳴るは一時かと仰ぎ視ればお月さまいつでも空とぼけてまんまるなり 脆いと申せば女ほど脆いはござらぬ女を説くは知力金力権力腕力この四つを除けて他に求むべき道はござらねど権・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ このお三輪が震災に逢った頃は最早六十の上を三つも四つも越していた。父は浦和から出て、東京京橋の目貫な町中に小竹の店を打ち建てた人で、お三輪はその家附きの娘、彼女の旦那は婿養子にあたっていた。この二人の間に生れた一人子息が今の新七だ。お・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・そこには軌道が二筋ずつ四つか五つか並べて敷いてある。丁度そこへ町の方からがたがたどうどうと音をさせて列車が這入って来る処である。また岸の処には鉄の鎖に繋がれて大きな鉄の船が掛かっている。この船は自分の腹を開けて、ここへ歌いながら叫びながら入・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・男の子はじぶんのお家の、四つ足の白い、栗の皮のような赤い色の牛のことを話しました。女の子は、そこいらになっているりんごを一つもいで、二人で食べました。二人はすっかりなかよしになりました。 男の子は、金の窓のことを女の子に話しました。女の・・・ 鈴木三重吉 「岡の家」
・・・せめて様々の料理を取寄せ、食卓を賑かにして、このどうにもならぬ陰鬱の気配を取払い度く思い、「うなぎと、それから海老のおにがら焼と茶碗蒸し、四つずつ、此所で出来なければ、外へ電話を掛けてとって下さい。それから、お酒。」 母はわきで聞い・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・『物理年鑑』に出した論文だけでも四つでその外に学位論文をも書いた。いずれも立派なものであるが、その中の一つが相対論の元祖と称せられる「運動せる物体の電気力学」であった。ドイツの大家プランクはこの論文を見て驚いてこの無名の青年に手紙を寄せ、そ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・道太は一度も入ったことのないその劇場が、どんな工合のものかと思って、入口へ寄って、場席の手入れや大道具の準備に忙しい中を覗いてみたが、その時はもう絵看板や場代なんかも出ていて、四つの出しもののうち、大切の越後獅子をのぞいたほか、三つとも揃っ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫