・・・く陸でつながっていたのではないかと思われるが、それがその後の地変のために切断してそれが潮流のために広く深く掘りえぐられた、それから後にどこかからひぐまが蝦夷地に入り込んで来たのではないかと想像される。四国にはきつねがいないということがはたし・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・こういう天候で、もし降雨を伴なわないと全国的に火事や山火事の頻度が多くなるのであるが、この日は幸いに雨気雪気が勝っていたために本州四国九州いずれも無事であった。ところが午後六時にはこの低気圧はさらに深度を強めて北上し、ちょうど札幌の真西あた・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・嫁さんも御主人の親類筋の人で、四国でいい船持ちだということです。庄ちゃんなんか行って、私をむずかしい女のように言っていたんですけれど、逢ってみればそんなじゃないなんて、ずいぶんよくしてくれるんです。それやどうして、学校出のちゃきちゃきですか・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・せられると見て夢はさめた、犬はこのお告に力を得て、さらば諸国の霊場を巡礼して、一は、自分が喰い殺したる姨の菩提を弔い、一は、人間に生れたいという未来の大願を成就したい、と思うて、処々経めぐりながら終に四国へ渡った、ここには八十八個所の霊場の・・・ 正岡子規 「犬」
・・・ たとえば四国の方のある女学校では、夏の炎天でも日傘をさすことをやめさせたという記事をこの間読んだ。 四国というと、私たちには暑い地方という感じがある。田舎の女学校の生徒であってみれば歩く時間もかなりあると思える。日にやけた顔色はよ・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・琴平の怪奇なようなぼっこり山の黒いかげの下の真暗な石段道も、そこが四国であれば珍らしく思えた。 石段の数が次第に多くなって黒いぼっこり山の頂近いところに、煌々と電燈を射出している一つの家が見えた。「一寸おどかそうかな」 若い人は・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・なるほど、同じ日本でも山にかこまれた奥羽の農村の持っている文化と、四国の海岸の漁村の持っている文化とをくらべれば、そこにはあきらかに異った特色が認められることは事実である。けれども地方の地理的な特色がその地方の文化の発展の第一義的要素である・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・多分四国へでも渡ったかと云うことである。 松坂の目代にこの顛末を聞いた時、この坊主になった定右衛門の伜亀蔵が敵だと云うことに疑を挾むものは、主従三人の中に一人もなかった。宇平はすぐに四国へ尋ねに往こうと云った。しかし九郎右衛門がそれ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それは坊さんはF君の使に四国へ往ったので、九州へはその序に帰るのだと云うことであった。使に往った先は、向いに下宿している女学生の親元である。F君は女学生と秘密に好い中になっていたが、とうとう人に隠されぬ状況になったので、正式に結婚しようとし・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で花を見ていると、内裏を拝みに来た四国の田舎人たちが築地の外で議論するのが聞こえた。その人たちは玉王を見て、あれはらいとうの衛門の子ではないかと言って騒いでいたのである。玉王はそれを聞いて、自分が鷲にさ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫