・・・一日も早くあの人を殺してあげなければならぬと、私は、いよいよ此のつらい決心を固めるだけでありました。群集は、刻一刻とその数を増し、あの人の通る道々に、赤、青、黄、色とりどりの彼等の着物をほうり投げ、あるいは棕櫚の枝を伐って、その行く道に敷き・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・どのように言ってみても、勝治は初志をひるがえさず、ひるがえすどころか、いよいよ自己の悲壮の決意を固めるばかりである。母は窮した。まっくらな気持で、父に報告した。けれども流石に、チベットとは言い出し兼ねた。満洲へ行きたいそうでございますが、と・・・ 太宰治 「花火」
・・・ とある横町をちょっと山の方へ曲り込んでみると、道に向って倒れかかりそうになったある家に支柱をして、その支柱の脚元を固めるためにまた別のつっかい棒がしてある。吾々仲間でその支柱の仕方が果してどれだけ有効であろうかといったようなことを話し・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
出典:青空文庫