・・・一方的観察を固持して、死ぬるとも疑わぬ。真理追及の学徒ではなしに、つねに、達観したる師匠である。かならず、お説教をする。最も写実的なる作家西鶴でさえ、かれの物語のあとさきに、安易の人生観を織り込むことを忘れない。野間清治氏の文章も、この伝統・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・通俗文学の作者も自信をもって、通俗小説の彼らの所謂大衆的本質を固持していたのであった。 今日、再び文学の大衆化が云われているのであるが、これは、かつてプロレタリア文学が独自の立場から、大衆性をとりあげた時代とは大いに趣を異にして来ている・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・それらの息子等の生活態度に反対しつつ、抽象的に人格の自由を重んじ無抵抗ならんとした心持が一つの矛盾となって、現実的な形での対立は固持し得なかった一家の父としてのレフ・トルストイの難破した姿。 思想的にはこれと意味がちがい、もっと弱い調子・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
出典:青空文庫