・・・阿波国名もあるいは同じか。五百蔵 「イウォロ」山。斗賀野 「ツク」上方に拡がる「ヌ平原丘。四万十川 「シ」甚だ。「マムタ」美しき。布師田 北海道に「ヌノユシ」の地名がある。蓬野の義である。伊尾木 「イオチ」は蛇の居るであ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ 州名国名など広き地名を多く用いたり。些細なることなれど蕪村以前にはこの例少かりしにや。河内路や東風吹き送る巫女が袖雉鳴くや草の武蔵の八平氏三河なる八橋も近き田植かな楊州の津も見えそめて雲の峰夏山や通ひなれたる若・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 斯様に書きながらも思う事でございますが、他国人が他国人を批評する時、兎角陥り易い欠点は、或人間の群が、或特定の圏境の裡に発達したもの、と云う心持で批評の対象国民を見ずに、その人間達の持つ国名の響で、批判的気分の大半を埋めて仕舞う事だと・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 総ての人々は、私共も、彼等も、皆、冷静に、賢い心持の時沈思して見れば、国家と云うものは、私共の一つの生活形式である事、国名と云うものが、単に一種の符牒である事を知って居るのだ。 或る地上の部分部分に生れ、生活し、死んで行く、我も彼・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫