・・・軍艦の比率を争うのも緊要であろうが、科学戦に対する国防がこの状況では心細くはないか。 繰返して云うが、学位などは惜しまず授与すればそれだけでもいくらかは学術奨励のたしになるであろう。学位のねうちは下がるほど国家の慶事である。紙屑のような・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・大砲の煙などは煙のうちでもずいぶん高価な煙であろうと思うが、しかし国防のためなら止むを得ないラキジュリーであろう。ただ平時の不注意や不始末で莫大な金を煙にした上に沢山の犠牲者を出すようなことだけはしたくないものである。 これは余談である・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・これはまた飛行機に限らずあらゆる国防の機関についても同様に言われることである。もちろん当局でもそのへんに遺漏のあるはずはないが、しかし一般世間ではどうかすると誤った責任観念からいろいろの災難事故の真因が抹殺され、そのおかげで表面上の責任者は・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 地震国防 伊豆地方が強震に襲われた。四日目に日帰りで三島町まで見学に出かけた。三島駅でおりて見たが瓦が少し落ちた家があるくらいでたいした損害はないように見えた。平和な小春日がのどかに野を照らしていた。三島町へはいっ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・昔の政事に祭り事が必要であったと同様に文化国の政治には科学が奥底まで滲透し密接にない交ぜになっていなければ到底国運の正当な進展は望まれず、国防の安全は保たれないであろうと思われる。 これは日本と関係のないよその話ではあるが、自分の知ると・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 軍艦飛行機を造るのが国防であると同じように、このような観測網の設置も日本にとってはやはり国防の第一義であるかと思われるのである。 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 国家の安全を脅かす敵国に対する国防策は現に政府当局の間で熱心に研究されているであろうが、ほとんど同じように一国の運命に影響する可能性の豊富な大天災に対する国防策は政府のどこでだれが研究しいかなる施設を準備しているかはなはだ心もとないあ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・また年二億円の損失は日本の世帯から見て非常に大きいとは言われないかもしれないが、それでも輸入超過年額の幾割かに当たり、国防費の何十プロセントにはなりうる。 これほどの損害であるのに一般世間はもちろんのこと、為政の要路に当たる人々の大多数・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・昔の女らしさの定義のまま女は内を守るものという観念を遵守すれば、国防婦人会の働く形体にしろ現実にそれとは対置されたものである。内を守るという形も、さまざまな経済事情の複雑さにつれて複雑になって来ていて、人間としてある成長の希望を心に抱いてい・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・戦争中、人民から集めた国防献金は七億円あまった。それは、今どこに管理されている。日婦が、一応解散したとき一億円だかの財産があった。それも、どこかの役所にしまいこまれている。 失業者は二月下旬に五百八十三万人と云われた。これは、日本の失業・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
出典:青空文庫