・・・六尺近い背丈を少し前こごみにして、営養の悪い土気色の顔が真直に肩の上に乗っていた。当惑した野獣のようで、同時に何所か奸譎い大きな眼が太い眉の下でぎろぎろと光っていた。それが仁右衛門だった。彼れは与十の妻を見ると一寸ほほえましい気分になって、・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 随分と土気色になったなア! ……これで明日明後日となったら――ええ思遣られる。今だって些ともこうしていたくはないけれど、こう草臥ては退くにも退かれぬ。少し休息したらまた旧処へ戻ろう。幸いと風を後にしているから、臭気は前方へ持って行こうとい・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・唇まで土気色をし、「いやだ!」ときっぱり拒んだ。「一寸廻る分にはいいだろう、次手だもの」「いやだと云ったらいやだ」 それは昼間の普請場に響き渡る大声であった。幸雄が立つ。続いて手塚も突立った。相手を睨み据えながら、幸雄は・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫