・・・しかもその一つ一つの象形文字のような夢内容は驚くべく多様な夢思想の圧縮されたエッセンスであり、またはなはだしく複雑な夢思想の網目の接合点である。それらの接合点のうちでも、その人のその日の、その前日の、また生涯の経験――意識的ないし無意識的―・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ これらの作品は、非常に複雑で熱い意欲をたくみに圧縮しつつ心を打つ力をもっていると思われますし、別な例では、ようやく終った所長の訓示ヒヤカシ半分に拍手浴びせワッと喊声あげて職場へ引き上げる。など、・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・それは、呼びかけるということが、実に沢山の、云いつくされない沢山の感情と感覚との圧縮的表現だから。感覚的な、感覚が話す話はなかなか字に出来にくいものですね。――芸術家というものがこの感覚的なものによって生き、人生をさぐり、そのものの内容をよ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・芭蕉の芸術のように精煉し圧縮し、感覚をつきつめた芸術の道が、そのような女性の生活ではなかなか歩むにかたいことであった。家事に疲れた僅かの時間を行燈のもとでひっそりと芸術にささげるのでは、女の才能が伸びる可能もまことにおぼつかない。 近松・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・半ば生れんとして生れなかった自由民権時代の婦人の社会的覚醒への希望の本質は、むしろこの流れのうちに発展され、うけつがれるべきであったが、日本の社会の歴史の全く独特な襞の深さは、常に歴史のテムポを極度に圧縮し、あらゆる事象の発達の前後の関係に・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ウエルズは大系を五分の一ほどに圧縮し、内容も殆ど全部かき直した。それはそうであったろう。一九二二年から後の十年間こそ今日の世界史の大動揺がその底に熟しつつあった深刻な時代であったのであるから。「この書を通読してまず感歎することは、宇宙の・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・その病的に、薄暗く、しかしつよい照明に照し出された狭い置舞台の上を、華美な着付でうごくことでフレスタコフと市長夫人、娘の恋愛的情景に非常に圧縮された濃い深い雰囲気を出した点、メイエルホリド一流の好みで、ロイド眼鏡をかけたフレスタコフが、ゆき・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・読書もできず、手紙さえも自分で書けない状態は私の感情を圧縮した。珍しくこの年はいくつかの詩ばかりを書いた。これは文学的作品であるよりも訴えであり、嘆息であり、つまり門外不出の作品である。日本の軍事行動はシンガポール占領、ビルマ、ジャワ占・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・あの二つの、切な吠え声だけに人生が圧縮されてしまったように感じ、私も一緒に吠えだしたくなる。ウォーイと。〔一九二六年七月〕 宮本百合子 「吠える」
・・・単なる插話という以上の子供と大人の生活のいきさつが圧縮されて出ているので、こまかに事柄を追ってみれば、ここに叱る母の無理なさ、つい鋏でジョキジョキやってしまった子供の邪気なさ、その家ではその頃子供に切りぬき絵を買ってやることに心づかないでい・・・ 宮本百合子 「「保姆」の印象」
出典:青空文庫