・・・あとで知ったことだが、この在郷軍人会の分会長は伍長上りの大工で、よその分会から点呼を受けに来た者には必ず難癖をつけて撲り飛ばすということであった。なお、この男を分会長にいただいている気の毒な分会員達は二週間の訓練の間、毎日の如く愚劣な、そし・・・ 織田作之助 「髪」
・・・これでもお前様たちがはいってピンと片づけてみなせ、けっこうな住家になるで。在郷には空いてる家というものはめったにないもんでな、もっとも下の方に一軒いい家があるにはあるが、それがその肺病人がはいった家だで、お前様たちでは入れさせられないて、気・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 村の在郷軍人や、青年団や、村長は、入営する若ものを送って来る。そして云う。国家のために入営するのは目出度いことであり、名誉なことであり、十分軍務に精励せられることを希望する、と。 若ものたちは、村から拵えてよこした木綿地の入営服か・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・そのほか、学校も、青年訓練所も、在郷軍人会も、彼等の××のための道具となっている。製鉄所も、化学工場も、肥料会社も――そして、そこに働いている労働者が――戦争のために使われる。化学工場からは、毒瓦斯を、肥料工場からは――肥料会社は、肥料を高・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・先日も、在郷軍人の分会査閲に、戦闘帽をかぶり、巻脚絆をつけて参加したが、私の動作は五百人の中でひとり目立ってぶざまらしく、折敷さえ満足に出来ず、分会長には叱られ、面白くなくなって来て、おれはこんな場所ではこのように、へまであるが、出るところ・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・―― 村の在郷軍人で、消防の小頭をし、同時に青年団の役員をつとめている仙二が心を悩ましていたのは、お園のことや、近く迫っている役員改選期のことではなかった。沢や婆さんのことであった。 何故、この白髪蓬々の、膝からじかに大きな瞼に袋の・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 町会か或は在郷軍人会の、そういうところの人々がより合って、名誉を記念する方法を講じたとき、こういう情景が生じる場合もあり得ることを思っていただろうか。隣同士というものの生活がそこまで、まざまざと現れることへの想像が働かなかったのではな・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・自分を死んだものとして無責任に片づけ、而も如何にも儀式ばった形式で英霊の帰還だとか靖国神社への合祀だとか、心からその人の死を哀しむ親や兄弟或いは妻子までを、喪服を着せて動員し、在郷軍人は列をつくり、天皇の親拝と大きく写真まで撮られたその自分・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 地方から衛生課長か何かが在郷軍人か何かをつれて来たそうだがあまり恐ろしい有様におぞげをふるって手を出さず戻ってしまい人夫も金はいくらやると云ってもいやがってしない。ために巡査がしなければならない。 ○焼け死んだ人のあるところは、往・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・学校仲間、在郷軍人、親類などから祝によばれたり呼んだりするので母親はせわしがってるとうれしそうに云って行った。 高橋の息子が帰った頃から又寒さがました様で、段々空気は荒く、風の吹き様もなみではなくなって来た。祖母は、吹雪の時の用心に屋根・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫