・・・ エミール・ヤニングス主演のこの映画は、はじめからおしまいまで、この主役者の濃厚な個性でおおい尽くされた地色の上に適当な色合いを見計らった脇役の模様を置いた壁掛けのようなものである。もっとも同じくヤニングスのものであっても相手役にデ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・椰子の木の森の中を縫う紅殻色の大道に馬車を走らせた時の名状のできない心持ちだけは今でもありあり胸に浮かんで来るが、細かい記憶は夢のように薄れて、ただ緑と赭の地色の上に染め出された更紗模様のように混雑してしまっている。それでもこの寒く冷たい寝・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・そういう部分がゴーリキイ的な地色で塗られている。色は多様で燦いているが輪廓が鮮明に動いていないところは、どこやらビザンチン式モザイックの趣があり、過去のロシアの民衆の内部にあった感受性の或る傾向を示すものではなかろうかと考える折があります。・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫