・・・周章てて急坂を駈下りて転がるように停車場に飛込みざま切符を買った処へ、終列車が地響き打って突進して来た。ブリッジを渡る暇もないのでレールを踏越えて、漸とこさと乗込んでから顔を出すと、跡から追駈けて来た二葉亭は柵の外に立って、例の錆のある太い・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
一 山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木の電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、千駄谷の田畝をてくてくと歩いていく男がある。この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘の深い田畝道に古い長靴を引きずっていくし・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、啜り啖い、轢殺車は地響き立てながら地上を席捲する。 かくて、地上には無限に肥った一人の成人と、蒼空まで聳える轢殺車一台とが残るのか。 そうだろうか! そうだとするとお前・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・まして確然とした世界観をもつプロレタリア作家が、遠く島国日本の客観情勢を展望し、中国の新興力を鳥瞰図的に把握し、しかもソヴェト同盟における大建設の地響きを足に感じながら目前に大危機を経験しつつあるドイツを見ているとしたら大小説を書きたくなら・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
出典:青空文庫