・・・それは昔山の方から流れて走って来て又火山灰に埋もれた五層の古い熔岩流だったのです。 崖のこっち側と向う側と昔は続いていたのでしょうがいつかの時代に裂けるか罅れるかしたのでしょう。霧のあるときは谷の底はまっ白でなんにも見えませんでした。・・・ 宮沢賢治 「谷」
・・・ ホウ、そら、やれ、むかし 達谷の 悪路王、まっくらぁくらの二里の洞、渡るは 夢と 黒夜神、首は刻まれ 朱桶に埋もれ。 やったぞ。やったぞ。ダー、ダー、ダースコ、ダーダ、青い 仮面この こけおどし、・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・「十力の大宝珠はある時黒い厩肥のしめりの中に埋もれます。それから木や草のからだの中で月光いろにふるい、青白いかすかな脈をうちます。それから人の子供の苹果の頬をかがやかします」 そしてみんながいっしょに叫びました。「十力の・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・が、そこまでは遠く列車の止ってるのは雪に埋もれた丘の附近である。 ――何てステーション? ノヴォミールが廊下できいている。 ――木のステーション! 人形を手にぶら下げて、わきに立っている姉娘が返事した。 むこうの方で、別・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・私は、此一生をお前の 愛に捧げよう、我生をその愛に献じ魂をこめて生命を伝えたら生存が お前の奥に埋もれ切った時お前らは 私の囲りで 素晴らしいモニュメントともなるだろう。ひとは 只一ひらの紙を見る。然・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ロシアのように広大な国土のところでは、一口にロシアの詩人、作家といっても、黒海沿岸、南露の詩人の気質・表現と、半年雪に埋もれ原始密林を眺めているシベリア地方生れの詩人、作家の気質・表現とは、その扱う題材がちがうように、著しい相異がある。・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・暫く行くと草に埋もれて、複線のレールが古びている。これは又何故か? 私は不思議に思った。すべてのものを役に立てるソヴェト同盟の労働者がどうしてレールを腐らしているのだろう? ドミトロフ君のその時の答えは、今日も猶つよく私の心にのこってい・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・夢を見ているように美しい、ハムレット太子の故郷、ヘルジンギヨオルから、スウェエデンの海岸まで、さっぱりした、住心地の好さそうな田舎家が、帯のように続いていて、それが田畑の緑に埋もれて、夢を見るように、海に覗いている。雨を催している日の空気は・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・「西洋の学者の掘り散らした跡へ遙々遅ればせに鉱石のかけらを捜しに行くのもいいが、我々の脚元に埋もれてゐる宝を忘れてはならないと思ふ。」 寺田さんはその「我々の脚元に埋もれてゐる宝」を幾つか掘り出してくれた人である。・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・砂の中に埋もれてわずかに下半身だけを残していた塑像なども、それの好い材料であった。今名取君の撮影して来た写真を見ていると、あの時の空想がすっかり実現されて来たような気持ちになる。麦積山の創始の時代、すなわち五世紀から六世紀へかけての時代には・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫