・・・ 氷見鯖の塩味、放生津鱈の善悪、糸魚川の流れ塩梅、五智の如来へ海豚が参詣を致しまする様子、その鳴声、もそっと遠くは、越後の八百八後家の因縁でも、信濃川の橋の間数でも、何でも存じておりますから、はははは。」 と片肌脱、身も軽いが、口も・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ こんな塩梅で、その頃鴎外の処へ出掛けたのは大抵九時から十時、帰るのは早くて一時、随分二時三時の真夜中に帰る事も珍らしくなかった。私ばかりじゃなかった、昼は役所へ出勤する人だったからでもあろうか、鴎外の訪客は大抵夜るで、夜るの千朶山房は・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・絶句する処が頼もしいので、この塩梅ではマダ実業家の脈がある、」と呵然として笑った。 汽車の時間を計って出たにかかわらず、月に浮かれて余りブラブラしていたので、停車場でベルが鳴った。周章てて急坂を駈下りて転がるように停車場に飛込みざま切符・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・此塩梅では死骸の側を離れたくも、もう離れられんも知れぬ。やがておれも是になって、肩を比べて臥ていようが、お互に胸悪くも思はなくなるのであろう。 兎に角水は十分に飲むべし。一日に三度飲もう、朝と昼と晩とにな。 日の出だ! 大きく盆・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・あくどい蒼蠅さがわりに少なくて軽快な俳諧といったようなものが塩梅されているようである。例えばドライヴの途上に出て来るハイカラな杣や杭打ちの夫婦のスケッチなどがそれである。「野羊の居る風景」などもそれである。ただ残念に思うのは、外国の多くの実・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の上に来るように塩梅するらしい。それが、多年の熟練の結果であろうが、はじめひょいと載せただけでもう第一近似的にはちゃんと正しい位置におかれている、それで、あとはただこの団塊をしっかり台板に・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・が、困った事には父上の外は揃いも揃うた船嫌いで海を見るともう頭痛がすると云う塩梅で。何も急く旅でもなしいっそ人力で五十三次も面白かろうと、トウトウそれと極ってからかれこれ一月の果を車の上、両親の膝の上にかわるがわる載せられて面白いやら可笑し・・・ 寺田寅彦 「車」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・この理想への一つの試験的の作業としては、たとえば三吟の場合であれば、その中の一人なりまた中立の他の一人なりが試験的の監督となりリーダーとなってその人が単に各句の季題や雑の塩梅を指定するのみならず、次の秋なら秋、恋なら恋の句をだれにやらせるか・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・いい塩梅に平場の前の方を融通してくれたんですよ」「そう。お芳さんも久しく見ないが、どこにいる」 お絹は指ざしして教えてくれたけれど、疎い道太の目には入りかねた。 肌でもぬぎたいほど蒸し暑い日だったので、冬の衣裳をつけた役者はみな・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫