・・・ 最も変わったレコードとしては、アメリカのコーラスガールで、接吻の際における心臓鼓動数の増加が毎分十五という数字を得ているのがある。次点者は十三という数で惜敗したそうである。しかし事前におけるノルマルの鼓動数が書いてないから増加のパーセ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ 一本の麻縄に漸次に徐々に強力を加えて行く時にその張力が増すに従って、その切断の期待率は増加する。しかしその切断の時間を「精密に」予報する事は六かしい、いわんやその場処を予報する事は更に困難である。 地震の場合は必ずしもこれと類型的・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ただ吾人は過飽和度の増加に伴うて結晶析出を期待する公算を増す事を知り、また結晶中心の数につきても公算的にある期待をなす事を得るに過ぎず。しかるにもし人間以上の官能を有するいわゆるマクスウェルの魔のごときものありて、分子一つ一つの排置運動を認・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・その間に停留所に立つ人の数はほぼ一定の統計的増加率をもって増して行く。それが二十人三十人と集まったころにやって来る最初の車は、必ずすでに初めからある程度の満員である。それがそこで下車する数人を降ろして、しかして二十人三十人を新たに収容しなけ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・春陽堂と改造社との両書肆が相競って全集一円本刊行の広告を出す頃になると、そういう一面識もない人で僕と共に盃を挙げようというものがいよいよ増加した。初めに給仕を介したり或は名刺を差付けたりする者はまだしも穏な方であった。遂には突然僕の面前に坐・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・又学者の説に、医学医術等には男子よりも女子を適当なりとして女医教育の必要を唱え、現に今日にても女医の数は次第に増加すと言う。何れの方面より見ても婦人の天性を無智なりと明言して之を棄てんとするは、女大学記者の一私言と言う可きのみ。 又女は・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・大蔵省においては期せずして歳出を減じたることなれば、その金額をもってただちに帝室費を増加し、帝室はこの増額をもって学校保護の用にあてられたらば、さらに出納の実際に心配なくして事を弁ずること、はなはだ容易なるべし。ただに実際に心配なきのみなら・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・近来教育の進歩に随て言葉の数も増加し、在昔学者社会に限りて用いたる漢語が今は俗間普通の通語と為りしもの多き中にも、我輩の耳障なるは子宮の文字なり。従前婦人病と言えば唯、漠然血の道とのみ称し、其事の詳なるは唯医師の言を聞くのみにして、素人の間・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・これに反して智恵の分量は古来今に至るまで次第に増加して、智識少なき時は文明の度低く、智識多き時は文明の度高し。亜非利加の土人に智識少なし、ゆえに未だ文明の域に至らず。欧米人に智識多し、ゆえにその人民は文明の民なり。 されば今日の文明は道・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・『万葉』は主として主観的歌想を述べたるものにして客観的歌想は極めて少かりしが、『古今』以後、客観的歌想の歌、次第にその数を増加するの傾向を見る。 主観的歌想の中にて理屈めきたるはその品卑しく趣味薄くして取るに足らず。『古今』以後の歌には・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫