・・・「構うことあ無えやナ、岩崎でも三井でも敲き毀して酒の下物にしてくれらあ。「酔いもしない中からひどい管だねエ、バアジンへ押込んで煙草三本拾う方じゃあ無いかエ、ホホホホ。「馬鹿あ吐かせ、三銭の恨で執念をひく亡者の女房じゃあ汝だってち・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・二人が何とか藤さんの身の上を語って、千鳥の話を壊しはしまいかと気がもめた。 小母さんは帰ってくるやいなや、「あなたお腹がすいたでしょう。私気になって急いで帰ったのでしたけど」と、初やにお菜の指図をして、「これから当分は何だかさび・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・宅のすぐ向う側に風呂屋が建つことになって、昨日から取毀しが始まった。この出来事によって今年の夏の暑さの記憶は相当に濃厚なものになるであろうと思われる。 四 験潮旅行 明治三十七年の夏休みに陸中釜石附近の港湾の潮・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・要するに現代の生活においては凡ての固有純粋なるものは、東西の差別なく、互に噛み合い壊し合いしているのである。異人種間の混血児は特別なる注意の下に養育されない限り、その性情は概して両人種の欠点のみを遺伝するものだというが、日本現代の生活は正し・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・ それから、イミテーションは外圧的の法則であり、規則であるという点から、唯打ち毀して宜いというものではない。必要がなくなれば自然に毀れる。唯、利益、存在の意義の軽重によって、それが予期したより十年前に自ら倒れるか、十年後に倒れるかである・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・尤も十二年前に洋行するとき親戚のものが餞別として一本呉れたが、夫はまだ使わないうちに船のなかで器械体操の真似をしてすぐ壊して仕舞った。夫から外国にいる間は常にペンを使って事を足していたし、帰ってから原稿を書かなくてはならない境遇に置かれても・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・こんな状態の女を搾取材料にしている三人の蛞蝓共を、「叩き壊してやろう」と決心した。「誰かがひどくしたのかね。誰かに苛められたの」私は入口の方をチョッと見やりながら訊いた。 もう戸外はすっかり真っ暗になってしまった。此だだっ広い押しつ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・何にしても、文学を尊ぶ気風を一旦壊して見るんだね。すると其敗滅の上に築かれて来る文学に対する態度は「文学も悪くはないな!」ぐらいな処になる。心持ちは第一義に居ても、人間の行為は第二義になって現われるんだから、ま、文学でも仕方がないと云うよう・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・傘ぶっ壊したり。」「それから? それから?」又三郎は面白そうに一足進んで云いました。「それがら、樹折ったり転覆したりさな。」「それから? それから、どうだい。」「それがら、稲も倒さな。」「それから? あとはどうだい。」・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・大将「いかん、いかん、エボレットを壊しちゃいかん。」特務曹長「いいえ、すぐ組み立てます。もう片っ方拝見いたしたいものであります。」大将「ふん、あとですっかり組み立てるならまあよかろう。」特務曹長「なるほど金無垢であります。す・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
出典:青空文庫