・・・て、ふだんから生真面目の人、しかもそのころは未だ二十代、山の奥、竹の柱の草庵に文豪とたった二人、囲炉裏を挟んで徹宵お話うけたまわれるのだと、期待、緊張、それがために顔もやや青ざめ、同僚たちのにぎやかな声援にも、いちいち口を引きしめては深くう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・で無い、無力の作家でも、満洲の現在の努力には、こっそり声援を送りたい気持なのです。私は、いい加減な嘘は、吐きません。それだけを、誇りにして生きている作家であります。私は、政治の事は、少しも存じませんが、けれども、人間の生活に就いては、わずか・・・ 太宰治 「三月三十日」
・・・私は、三田君に声援を送った。けれども、まだまだ三田君を第一等の日本男児だとは思っていなかった。まもなく、函館から一通、お便りをいただいた。 太宰さん、御元気ですか。 私は元気です。 もっともっと、 頑張らなければなりません。・・・ 太宰治 「散華」
・・・いい弟と、いい妹の陰ながらの声援が、脊中に涼しく感ぜられ、あいつらの為にだけでも、も少しどうにか、偉くなりたいものだと思った。ふと傍に眼を転ずると、私のゆうべ着て出た着物が、きちんと畳まれて枕もとに置かれて在る。私の新しい小さい妹が、ゆうべ・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・誰か、この見込みの少い選手のために、声援を与える高邁の士はいないか。 おととしあたり、私は私の生涯にプンクトを打った。死ぬと思っていた。信じていた。そうなければかなわぬ宿命を信じていた。自分の生涯を自分で予言した。神を冒したのである。・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・ 今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知り、私も一夜、手垢の附いた聖書を取り出して、パウロの書簡を読み、なぜだか、しきりに今官一君に声援を送りたくなった次第である。 太宰治 「パウロの混乱」
・・・その完成の日には、私も覆面をとって私の住所姓名を明らかにして、貴下とお逢いしたいと思いますが、ただ今は、はるかに声援をお送りするだけで止そうと思います。お断りして置きますが、これはファン・レタアではございませぬ。奥様なぞにお見せして、おれに・・・ 太宰治 「恥」
・・・には、避けがたい事情で一家の主・良人・父を喪った母と子とがそのめぐり合わせに挫かれず、一層の誠意で互に扶け合いながら人間として健全に成長しようと努めている家庭を、それなりに自然な家庭の姿としてうけいれ声援してゆきたい痛切な社会感情があると思・・・ 宮本百合子 「いい家庭の又の姿」
・・・ と燕尾服のズボンに片手を突こみ片手には手袋を振って声援しているもう一人の学生。更に一人は瓦斯街燈にからみついて他愛がない。遙か彼方から、重い体で学生監がかけつつある。「EXCHANGE IS NO ROBBERY。」 ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
出典:青空文庫