・・・そしてその日は全部売りつくすまで廻りましたが、自分で食べた分もあるので、売上げは九十七銭でした。 半月ほど後に、私は河堀口の米屋の二階から今里のうどん屋の二階へ移りました。そこはトキワ会が近くて絵を借りに行くのが便利だったのと、階下がう・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり店員を遣って、支店長の外出中を襲わしめ、大事の商売を留守にして、外出とは何ごとか。それで支店長の責任が果せると思うのか。そんなあり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・もっとも、その金は「売上げ」のなかから、内緒でくすねていたものらしいと、あとでわかった時は、興冷めしたが……。 とにかく、儲かった。お前は有頂天になり、「もうおかね婆さんさえしっかり掴まえて置けば一財産出来ますぞ」 と、変に凄ん・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・もっとも、その金は「売上げ」のなかから、内緒でくすねていたものらしいと、あとでわかった時は、興冷めしたが……。 とにかく、儲かった。お前は有頂天になり、「もうおかね婆さんさえしっかり掴まえて置けば一財産出来ますぞ」 と、変に凄ん・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それで、母親を欺して買食いの金をせしめたり、天婦羅の売上箱から小銭を盗んだりして来たことが、ちょっと後悔された。種吉の天婦羅は味で売ってなかなか評判よかったが、そのため損をしているようだった。蓮根でも蒟蒻でもすこぶる厚身で、お辰の目にも引き・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・家に金の残らぬのは前々の借金で毎日の売上げが喰込んで行くためだとの種吉の言い分はもっともだったが、しかし、十二歳の蝶子には、父親の算盤には炭代や醤油代がはいっていないと知れた。 天婦羅だけでは立ち行かぬから、近所に葬式があるたびに、駕籠・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・夫婦がかりで薄気味悪いほどサーヴィスをよくしたが、人気が悪いのか新店のためか、その日は十五人客が来ただけで、それもほとんど替刃ばかり、売り上げは〆めて二円にも足らなかった。 客足がさっぱりつかず、ジレットの一つも出るのは良い方で、大抵は・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・畠の収穫物の売上げは安く、税金や、生活費はかさばって、差引き、切れこむばかりだった。そうかといって、醤油屋の労働者になっても、仕事がえらくて、賃銀は少なかった。が今更、百姓をやめて商売人に早変りをすることも出来なければ、醤油屋の番頭になる訳・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・いまはもう私どもも、仕入れに金がかかって、家の中にはせいぜい五百円か千円の現金があるくらいのもので、いや本当の話、売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んでしまわなければならないんです。今夜、私どもの家に五千円などという大金があったのは・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・りでございまして、二つの屋台をくっつけて謂わばまあ店舗の拡張という事になり、私は大工さんの仕事やら、店の品の仕入れやら、毎日へとへとになるまで働き、婆と娘は客の相手で、いやな用事はみんな私に押しつけ、売上げの金は婆と娘が握ってはなさず、だん・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫