・・・ それは暫く措き、都会がいたずらに発達するということも、中央集権的であるということも、従って都会人は、ようやく此生活から離れて行くがために、いよ/\変則的な生活を営むということも、また中央集権的なるが故に、文化がこゝのみに発達して、都会・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・ 今までのとうさんの生活が変則で、多少不自然であることは自分でも知っていましたが、おまえたち兄妹を養育するためには、これもやむをえないことでした。長い年月の間のとうさんの苦心は、おまえも思い見てくれることでしょう。だんだんおまえたちも大・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・ 実際自分のようなものでも、健康のぐあいがよくて精力の満ちているような場合に、このような変則な笑いの出現する事はまれであって、病後あるいは精神過労の後に最も顕著な事から考えてもこの仮説は少なくともよほど見込みがありそうである。 ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・しかしまあどういう理由にしても変則らしい気がします。一般の英国気質というものは、今お話しした通り義務の観念を離れない程度において自由を愛しているようです。 それで私は何も英国を手本にするという意味ではないのですけれども、要するに義務心を・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・われわれは軍律上少しく変則ではあるがこれから食事を始める。」兵士悦ぶ。曹長特務曹長「いや、盗むというのはいかん。もっと正々堂々とやらなくちゃいけない。いいか。おれがやろう。」特務曹長バナナン大将の前に進み直立す。曹長以下これ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ コロンタイズムは、全く一九一七年から二三年間の混乱期にふるいブルジョア社会の性的放縦の最後の反映、火花として現れた変則な社会現象であった。四五年以上も経過してから、日本において、一つの急進的な性関係のタイプとして、イデオロギー的にコロ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・これ迄は変則なインフレ景気で工員たちも遊んで暮せる金があったかもしれないが、現在、人々は遊んで餓えたいか、真面目に働いて安心して食いたいか、二つに一つの答えに迫られて来ていると思う。東京に六十万の失業者があって、その人々は闇商売の面白さに求・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・「あるいは読書と教育との変則のために、この子は年相当の成長はしなかったのだろう」その子供のこころのまま生きた療養所の周囲の自然や人々の姿が『春を待つ心』の中に小さい子供の話のようにいきいきと動いていて、しかし全体とするとどこか客観的なつかみ・・・ 宮本百合子 「病菌とたたかう人々」
・・・勢いよく吹くのは野分の横風……変則の匂い嚢……血腥い。 はや下ななつさがりだろう、日は函根の山の端に近寄ッて儀式とおり茜色の光線を吐き始めると末野はすこしずつ薄樺の隈を加えて、遠山も、毒でも飲んだかだんだんと紫になり、原の果てには夕暮の・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫