・・・ 二十歳の時、私の境遇には非常な変動が起った。郷里に帰るということと結婚という事件とともに、何の財産なき一家の糊口の責任というものが一時に私の上に落ちてきた。そうして私は、その変動に対して何の方針もきめることができなかった。およそその後・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・王仁三郎旦那は、取調べに当った検事に向って、「昭和二十年の八月二十日には、世界に大変動が来る。この変動は日本はじまって以来の大事件になる」 と予言して、検事に叱り飛ばされたということである。 私は予言というものを大体に於て信じな・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・御維新の大変動で家が追々微禄する、倹約せねばならぬというので、私が三歳の時中徒士町に移ったそうだが、其時に前の大きな家へ帰りたい帰りたいというて泣いていて困ったから、母が止むを得ず連れて戻ったそうです。すると外の人が住んで居て大層様子が変わ・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・これがわかったために私の実行的生活が変動するわけでも何でもない。のみならず現にその知識みずからが、まだこの上幾らでも難解の疑問を提出して休まない。自己というその内容は何と何とだ。自己の生を追うた行止りはどうなるのだ。ことに困るのは、知識で納・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・おそらくは宝永地震後、安政地震のころへかけて、この地方の地殻に特殊な歪を生じたために、表層岩石の内部に小規模の地すべりを起こし、従って地鳴りの現象を生じていたのが、近年に至ってその歪が調整されてもはや変動を起こさなくなったのではないかという・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・従ってその地質的変動によって生じた地震の波が如何なる波動であったかというような事はむしろ第二義以下の問題と見られる傾向がある。この方面の専門家にとっては地震即地変である。またいわゆる震度の分布という問題についても地質学上の見地から見ればいわ・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・具体的に云えば地辷り等がある限界内に止まれば、それだけにて止むも、少しにてもこれを超ゆれば他の弱点の破壊を誘起して更に大なる変動を起す事もあるべく、その際如何なる弱点が誘発さるるやはまた偶然的なる地下の局部的構造によると考えらる。 かく・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・彼らの仕事しながらの会話によって対岸の廃工場が某の鋳物工場であった事、それがようやく竣成していよいよ製造を始めようとするとたんに経済界の大変動が突発してそのまま廃墟になってしまった事などを知った。 絵の具箱を片付けるころには夕日が傾いて・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・それは同一地域の三角測量や精密水準測量を数年を隔てて繰り返し、その前後の結果を比較することによってわれらの生命を託する地殻の変動を詳しく探究することである。近着のアメリカ地理学会の雑誌の評論欄にわが国の地球物理学者の仕事を紹介してあるその冒・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・おそらくそのために従来の物理学がことごとくだめになるような事はあるまいが、従来用いられた諸概念に少なからぬ変動が来るであろうと予想するのは至当であるまいか。 少なくもわれらは従来経験的事実の要求に応じて、物理学的概念の内容にたびたび改革・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
出典:青空文庫