・・・ 学問に志して業を卒りたらば、その身そのまま即身実業の人たるべしとは、余が毎に諸氏に勧告するところにして、毎度の説法、聴くもわずらわしなど思う人もあるべけれども、余が身に経歴したる時勢の変遷を想回えして、近く第二世の事を案ずれば・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・人事の変遷、長き歳月を経る間には、子孫相続の主義はただに口実として用いらるるのみならず、早く既にその主義をも忘却し、一男にして衆婦人に接するは、あたかも男子に授けられたる特典の姿となり、以て人倫不取締の今日に至りしは、国民一家の不幸に止まら・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ さて、この立国立政府の公道を行わんとするに当り、平時に在ては差したる艱難もなしといえども、時勢の変遷に従て国の盛衰なきを得ず。その衰勢に及んではとても自家の地歩を維持するに足らず、廃滅の数すでに明なりといえども、なお万一の僥倖を期して・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
私の文学上の経歴――なんていっても、別に光彩のあることもないから、話すんなら、寧そ私の昔からの思想の変遷とでもいうことにしよう。いわば、半生の懺悔談だね……いや、この方が罪滅しになって結句いいかも知れん。 そこでと、第・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・社会の形成の変遷につれ次第に財産とともにそれを相続する家系を重んじはじめた男が、社会と家庭とを支配するものとしての立場から、その便宜と利害とから、女というものを見て、そこに求めるものを基本として女らしさの観念をまとめて来たのであった。それ故・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ ところが、諷刺は元来非常に活々した社会性をもっているものだけに、諷刺の対象が時代の影響をうけて変遷するばかりではない。諷刺するもの、そのものの属している階級の力のもりあがりと密接な関係をもって、諷刺の態度が時代によって違う。 よく・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・人一人の生涯の推移変遷は予測しがたいところがある激しさだから、ある時期は互の移りゆく速力が倍加した速力となって互に作用し合うような時期もあるだろう。そういうときでも、なおその間に十分な同感、納得、評価が可能であるだけの確乎とした生活態度が互・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・思想が古いとか古くないとかいうことはそもそも末であって、正しいか正しくないか、またその思想がどれほど人格的な力となっているか、その方が大切だ、とこう気づき始めると、儒教で育てられた父の思想が時勢の変遷といっこうに合っていないにかかわらず、根・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・新緑のころ、東山の常緑樹の間に点綴されていかにも孟春らしい感じを醸し出す落葉樹は、葉の大きいもの、中ぐらいのもの、小さいものといろいろあったが、それらは皆同じように、新芽の色から若葉の色までの変遷と展開を五月の上句までに終えるのである。そう・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・この点についてはすでに最近十年の変遷が実に目まぐろしい。古い歴史を読む場合には十年という年月はさほど注意するに当たらないきわめて短いもののように思える。しかし我々の前の十年は、汽車、汽船、電信、電話、特に自動車の発達によって、我々の生活をほ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫