・・・ 十二月七日 十二月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より〕 十二月七日、夕刻電報拝見しました。ああ本当にこういうこともある、とすぐ駒込郵便局へペンさんに電話してもらったところ、この頃ずっと小包みは受付けない由、手紙だ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 甘すぎるチョコレート話のあった翌日の夕刻、用があって又別の郊外電車にのった。買出しの大荷を背負った人々、勤めがえりの群集のつめこまれたその電車に、進駐軍の若い兵士二人が二人の若い日本の娘をつれて乗り合わせていた。娘たちはありふれた洋装・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・ 父の旅行先には、毎日夕刻「ハハカワリナシ」と電報を打った。祖母は、父の多忙のため、幾日も顔を見ないことに馴れていた。旅行については何もきかず、蜜柑の汁、すっぽんのスープ、牛乳、鶏卵などを僅に飲みながら、朝になり夜になる日の光を障子越し・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・私が何故そう奇麗でもない昼、夕刻にかけて散歩したかといえば、夜では隠れてしまう生活の些細な、各々特色のある断面を、鋪道の上でも、京橋から見下す河の上にでも見物されたからである。それに、昼間から夜に移ろうとする夕靄、罩って段々高まって来る雑音・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・そして引越したら、二三日で、溌剌騒然たる小学校の賑わいが、別して朗々たるラウド・スピーカアの響きとともに、朝から夕刻まで、崖上に巣をかけた私のしず心を失わした。夜間、青年学校が開かれるようになって遂に苦しさは絶頂に達した。この家は、外部の力・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 夕刻事務所から早く帰った日には、皆でテーブルを囲んで夕飯をたべ、後は談笑したり、音楽をきいたり、興に乗じると、昔ロンドンでアーヴィングが演ったハムレットの真似だと云って、芝居の真似をしたり、賑やかでした。喋っても、癇癪を起しても陽性で・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ 私共は用事があって夕刻から夜にかけて外出した。私は帰るなり訊いた。「どうして、鳥は」 留守居の若い娘は、弁解するように答えた。「いつまでも硝子戸をあけて置きましたが帰って参りませんから閉めてしまいましたけれど……」「い・・・ 宮本百合子 「春」
・・・けれども、夕刻に近く帰って来たAに其、突然起った今日の出来ごとを告げる時、口吻には、自ら、迷惑げな響が加えられた。 Aがそれを、何方かと云えば、だらしないこと、不快の分子の多いこととして感じるのを、心が、我知らず先廻りをして仕舞ったので・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・そして、イゾートの死体の発見された夕刻、群集の中で一人の商人を殴ったククーシュキンを、穴蔵へ入れるように命じた。それぎりであった。村は、自身の犯罪を深く呑みこんだ。 ひと月たたない或る朝、店の倉庫代用につかわれていた納屋から火が出た。そ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・けれども、忠告を与えている人々は、例えばテニス・コートなどが、工場の若い人たちのために夕刻から夜へ開放されていないという事実を、どんなに考えているのであろうか。 してはいけない、という面のことは細々と示されていると思う。それは示しやすい・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫