・・・草書を楷書に変じ、平仮名を片仮名にせんとするも、容易に行われ難き通俗世界の人民へ、横文左行の帳合法を示すも、人民はその利害得失を問うにいとまあらず、まずその外見の体裁に驚きてこれを避くることならん。 ゆえに、今の横文字の帳合法は、一家に・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・主人は内行に頓着せずして家事を軽んじ、あるいは妻妾一処に居て甚だ不都合なれども、内君は貞実にして主公は公平、妾もまた至極柔順なる者にして、かつて家に風波を生じたることなしなどいう者あれども、これはただ外見外聞の噂のみ。即ちその風波の生ぜざる・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・外国映画などで目から入ることの外見だけの模倣が現われる。そういうエティケット風な外国の模倣が続くのは特に日本では四十にならないまでのことである。家庭をもって生活してゆけば、遊びのような「協力ごっこ」は立ちゆかない。もし協力というものを遊びご・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・女子の学校などでも一日に百二十本のアイスクリームを売って、汗にまびれてけなげにアルバイトして勉強している学生と、文化的な外見をもちながら、生活の中心が全く腐敗してしまっている女子学生とがある。もしこのような今日の現実を、「あれはあの人たちだ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・の上に外見高くとまりつつ稼ぎつづけで、消耗されてきたのである。 戦争の年々は、私たちすべてに、苛烈な教訓を与えた。個々の作家の才能だけきりはなしてどんなに評価しても、全般にこうむる文化暴圧に対抗するにはなんの力でもなかったことを、まず学・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・男のひとのいい分とすれば、その外見的な粗暴のかげに日本の亭主ほど女房を立てているものはないと説明される。だけれど、男の側から見かけだけは荒っぽく扱われている日本の女こそ、習俗の上で見かけの礼儀や丁寧さのこまやかな欧米の男にだまされやすいとい・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ なるほど、村についた最初から彼プロレタリア作家は、K部落の窮乏がどんな外見をとって現れているかということは、こまかに書きとめている。外から部落へ入って来たものとして観ている。しかしそれらさまざまの外見をとって起る事件が、部落民の世界観・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・最後に、鴎外は、外見には労苦の連続であった「お佐代さんが奢侈を解せぬ程おろかであったとは誰も信ずることが出来ない。また物質的にも、精神的にも、何物をも希求せぬほど恬澹であったとは誰も信ずることが出来ない。お佐代さんには慥に尋常でない望みがあ・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・でお霜が出掛けてゆくことには、余り親子争いをしたくなかった彼は、外見、自分も母親同様の考えだと云うことを、ただ彼女だけに知らせるために黙っていた。が、安次を連れて行くことには反対した。けれども、自分のその気持を秋三に知らさない限り、自分の骨・・・ 横光利一 「南北」
・・・従って味の高下や品格などについては決して妥協を許さない明確な標準があったように思われる。外見の柔らかさにかかわらず首っ骨の硬い人であったのはそのゆえであろう。 何かのおりに、どうして京都大学を早くやめられたか、と先生に質問したことがある・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫