今度の戦で想い出した、多分太沽沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀なるある海軍中佐の語るには、 わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口上陸を保護するため・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・「お母が多分内所で入れてくれたんだ。」「それをまた今まで知らなかったとは間がぬけとるな。……全く儲けもんだ。」「うむ、儲けた。……半分わけてやろう。」 吉永は、自分が少くとも、明後日は、イイシへ行かなければならないことを思っ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・その後になっても外法頭という語はあって、福禄寿のような頭を、今でも多分京阪地方では外法頭というだろう、東京にも明治頃までは、下駄の形の称に外法というのがあった。竹斎だか何だったか徳川初期の草子にも外法あたまというはあり、「外法の下り坂」とい・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・その時、多分いま前を横切ってゆく子供に、奥の方でコックがものを云っているのが聞えた。「オヤ、この子供は今ンちから豆ッて云うと、夢中になるぜ。いやだなア!」 そんなことを云った。 すると、一緒にめしを食っていた女の人が、プッと笑い・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・患者の中で、奥様が一番こわい人だぞや。多分お前も廊下で見掛けただらず。奥様が犬を連れていて、その犬がまた気味の悪い奴よのい。誰の部屋へでも這入り込んで行く。この部屋まで這入って来る。何か食べる物でも置いてやらないと、そこいら中あの犬が狩りか・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・いつも女房の方が一足先に立って行く。多分そのせいで、女学生の方が、何か言ったり、問うて見たりしたいのを堪えているかと思われる。 遠くに見えている白樺の白けた森が、次第にゆるゆると近づいて来る。手入をせられた事の無い、銀鼠色の小さい木の幹・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ そのうちある時、いつも話の受け手にばかりなっていた、このチルナウエルが忽ち話題になった。多分当人も生涯この事件を唯一の話の種にすることであろう。それをなんだと云うと、この男は世界を一周した。そこで珍らしい人物ばかり来るこの店でさえ、珍・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 死んだ白猫の母は宅の飼猫で白に雉毛の斑点を多分にもっていたが、ことによると前の白猫と今度の「白」とは父親がおなじであるか、ことによると「白」が「ボーヤ」の子であるかもしれないと思われた。それについて思い当るのは、一と頃ときどき宅へ忍び・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
・・・十二名――諸君、今一人、土佐で亡くなった多分自殺した幸徳の母君あるを忘れてはならぬ。 かくのごとくして彼らは死んだ。死は彼らの成功である。パラドックスのようであるが、人事の法則、負くるが勝である、死ぬるが生きるのである。彼らはたしかにそ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・人力車を挽く方が汗がよほど多分に出るでしょう。自動車の御者になってお客を乗せれば――もっとも自動車をもつくらいならお客を乗せる必要もないが――短い時間で長い所が走れる。糞力はちっとも出さないですむ。活力節約の結果楽に仕事ができる。されば自動・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫