・・・ ただそれっきりだけれ共、濁声を張りあげて欠伸の出た事まで大仰に話す東北の此の小村に住む男達の中で私に一番強い印象をあたえたたった一人の男だった。 口取りと酢のもの 今日始めて私はいかにもこの上ないほど不味不味し・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 肇はいかにもせっせっと来た様な事を大仰に話す篤の顔を見て笑った。「おいそがしいんだから一寸の時だって無駄にゃあ出来ませんねえ、 篤さん。」 千世子が咲いた花の様に笑うと部屋中にパッと光線が差しこんだ様に二人には思えた。・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・大理石で少し赤味を帯び大形で彫刻の立派な方は玉座であるべき事をも一つの方をすべて粗末にして思わせる。卓子の上には切りたての鵞ペンと銀の透し彫りの墨壺がのって居る。部屋全体に紫っぽい光線が差し込んで前幕と同じ日の夕方近くの様子。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・彼女は、父や兄達が下らないことで勿体ぶり威張るのを見たり、場外れに大仰なことをしたりするのを見ると、妙にばつの悪い眼をパチリとやらずにいられない擽ったさを感じずにはいられなくなりました。 この心持は、もう暫く経つと、男と云うものは、偉い・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 読み進んでゆくうちに、読者は到るところで、しっくりはまりこめない凸凹した説明にぶつかったり、そうかと思うと、思わず作者バルザックに対する疑いを喚び覚まされるような大仰な、出来合いの大古典時代めいた形容詞を羅列した文章に足を絡まれる。非・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・大きなリボンを蝶々の様にかけて大形の友禅の着物に帯は赤か紫ときまって居た。どんな□(時でも足袋は祖母の云いつけではかせられ新らしい雪駄に赤い緒のすがったのをはいて居た。そんな華な私の好きらしい暮し方をして居る内に一人の私より一つ年上の舞子と・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・ 彼が赧くなると、マダム・ブーキンも一寸上気しながら、大仰に吐息をついた。「私、出来ることなら切角来て下すったんですもの、家へ幾日でもいていただきたいと思いますわ。どんなにまた仕合せにおなりになるまで、傍にいて慰めてお上げしたいでし・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ それから急に大仰に体の両側へ絶望的な手をひろげ、通行人に訴えようとするようにあたりを見廻しながら、 ――こりゃ何事だ!と叫んだ。 ――あんたは私の馬車にのって来た、それだのにここまで来ると払わないって云い出す! そんな話っ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫