・・・ さて大分熱くなって来たぞ。日が照付けるぞ。と、眼を開けば、例の山査子に例の空、ただ白昼というだけの違い。おお、隣の人。ほい、敵の死骸だ! 何という大男! 待てよ、見覚があるぞ。矢張彼の男だ…… 現在俺の手に掛けた男が眼の前に踏反ッ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・これ、後楯がついていると思って、大分強いなと煙管にちょっと背中を突きて、ははははと独り悦に入る。 光代は向き直りて、父様はなぜそう奥村さんを御贔負になさるの。と不平らしく顔を見る。なぜとはどういう心だ。誉めていいから誉めるのではないか。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ 叔母の家は古い郷士で、そのころは大分家産が傾いていたそうですが、それでも私の目には大変金持のように見えたのでございます。太い大黒柱や、薄暗い米倉や、葛の這い上った練塀や、深い井戸が私には皆なありがたかったので、下男下女が私のことを城下・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・銃を持たずにやってきた者も大分あったらしい。二人は、無茶苦茶に射ったのであるが、その間、彼等は、殆ど無意識で、あとから、自分等のやったことに気づいて吃驚したということだ。 兵卒は、誰れの手先に使われているか、何故こんな馬鹿馬鹿しいことを・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・叔母の肩をば揉んでいる中、夜も大分に更けて来たので、源三がつい浮りとして居睡ると、さあ恐ろしい煙管の打擲を受けさせられた。そこでまた思い切ってその翌朝、今度は団飯もたくさんに用意する、銭も少しばかりずつ何ぞの折々に叔父に貰ったのを溜めておい・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・「御新造さま、大分お早いなし」 と言って婆やが声を掛けた頃は、お新までもおげんの側に集まった。「お母さんは家に居てもああだぞい」とお新は婆やに言って見せた。「冬でも暗いうちから起きて、自分の部屋を掃除するやら、障子をばたばた言わ・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・もう大分借金が出来ました。もう他人の悪口を云い、他人に同情する年でもありますまい、止めます。もう給仕君床に入りました。ぼくに盛んに英語を聞くので閉口です。所でぼくは語学がなにも出来ないのです。所でぼくも床に入って書いています。給仕君煩さいの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・勘定は大分嵩張っていた。なぜと云うに、宿料、朝食代、給仕の賃銀なんぞの外に、いろいろな筆数が附いている。町の掃除人の妻にやった心附け、潜水夫にやった酒手、私立探偵事務所の費用なんぞである。 引き越したホテルはベルリン市のまるであべこべの・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 博覧会の工事も大分進行しているようである。これもやはりほんの一時的の建築だろうが、使っている材木を見るとなかなか五十年や百年で大きくなったとは思われないような立派なものがある。なんだか少し勿体ないような気がする。こんなものを使わなくて・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・秋山さんの方は、それから大分日数がかかった。これは相も悉皆崩れていたという話でね。」 爺さんはそこまで話して来ると、目を屡瞬いて、泣面をかきそうな顔を、じっと押堪えているらしく、皺の多い筋肉が、微かに動いていた。煙管を持つ手や、立ててい・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫