・・・もぶり鮓の竹皮包みを手拭にてしばりたるがまさに抜け落ちんとするを平気にて提げ、大分酔がまわったという見えで千鳥足おぼつかなく、例の通り木の影を踏んで走行いて居る。左側を見渡すと限りもなく広い田の稲は黄色に実りて月が明るく照して居るから、静か・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・ただ僕たちのはヘロンのとは大きさも型も大分ちがうから拵え直さないと駄目だな。」「うん。それはそうさ。」 さて雲のみねは全くくずれ、あたりは藍色になりました。そこでベン蛙とブン蛙とは、「さよならね。」と云ってカン蛙とわかれ、林の下・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・海浜ホテルの前あたりには大分人影があるが、川から此方はからりとしていた。陽炎で広い浜辺が短くゆれている……。川ふちを、一匹黒い犬が嗅ぎ嗅ぎやって来た。防波堤の下に並んで日向ぼっこをしながら、篤介がその犬に向って口笛を吹いた。犬は耳を立て此方・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・このシュールダンというは機敏な奴で一代の中に大分の金を余した男である。 皿の後に皿が出て、平らげられて、持ち去られてまた後の皿が来る、黄色な苹果酒の壺が出る。人々は互いに今日の売買の事、もうけの事などを話し合っている。彼らはまた穀類の出・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・今は大分おとなしくなっているが、彼れの微笑の中には多少の Bosheit がある。しかしこんな、けちな悪意では、ニイチェ主義の現代人にもなられまい。 号砲が鳴った。皆が時計を出して巻く。木村も例の車掌の時計を出して巻く。同僚はもうとっく・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・こいつなら大分大っきな卵を産みよるやろ?」「勘はな?」「さア、今そこにうろうろしていらったが。」 安次は三尺の中から丸めた紙幣をとり出した。「お霜さん。これ持っててくれんかな。二円五十銭あるのやが、何ぞの足しに、ならんかな。・・・ 横光利一 「南北」
芸術の検閲 ロダンの「接吻」が公開を禁止されたとき、大分いろいろな議論が起こった。がその議論の多くは、検閲官を芸術の評価者ででもあるように考えている点で、根本に見当違いがあったと思う。 検閲官は芸術の解らない人であって・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫