・・・「学校の先生なんテ、私は大嫌いサ、ぐずぐずして眼ばかりパチつかしているところは蚊を捕え損なった疣蛙みたようだ」とは曾て自分を罵しった言葉。 疣蛙が出ない中にと、自分は、「ちょっと出て来ます、御悠寛」とこそこそ出てしまった。何と意・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・わたし鬱金香が大嫌いさ。だけれどあの人はなんにでも鬱金香を付けなくちゃあ気が済まないのだもの。(乙、目を雑誌より放し、嘲弄の色を帯びて相手を見る。甲、両手を上沓に嵌御覧よ。あの人の足はこんなに小さいのよ。そして歩き付きが意気・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ドリスは喧嘩が大嫌いである。喧嘩で、一たび失ったこの女の歓心を取り戻すことは出来ない。それはポルジイにも分かっているから、我ながら腑甲斐なく思う。しかし平生克己ということをしたことのない男だから、またしては怒に任せて喧嘩をする。 ある日・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・実際弱虫の泣虫にはちがいなかったが、それでも曲った事や無法な事に負かされるのは大嫌いであった。無理の圧迫が劇しい時には弱虫の本性を現してすぐ泣き出すが、負けぬ魂だけは弱い体躯を駆って軍人党と挌闘をやらせた。意気地なく泣きながらも死力を出して・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・珍々先生は生れ付きの旋毛曲り、親に見放され、学校は追出され、その後は白浪物の主人公のような心持になってとにかくに強いもの、えばるものが大嫌いであったから、自然と巧ずして若い時分から売春婦には惚れられがちであった。しかしこういう業つくばりの男・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ 私は、直射する東や南の光線は大嫌いですから――少くとも勉強する時は――書斎は、北向でありたい。広い弓形の窓をとり、勿論洋風で、周囲にがっしりした木組みの書棚。壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・湘煙はいくらか同情気味で「私は実は女が大嫌いサ。」といっているのである。「ドウも洒落な、かまわん所がないからナ……男ならどんな人でも大抵手には余さんが……女と来ると丸で呼吸が分らんでナ……どう向けて善いものやら、……トンと困るテ。遇うと・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・私は、彼女の総てに朗々としないのが大嫌いであった。妙なことに拘わって、忍耐強い性格のまま執念くやられると、私は憎しみさえ感じた。そして、怒った。怒りながら、私は祖母のために、編ものをした。細かい身の廻りのことにおのずから気がついた。「い・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・私は男の声は大嫌いだ。まして、思慮分別がありそうだったり、沈勇と云う魔に憑かれた奴のは、地獄の風よ、吹き攫え。私は、弱い女が死に者狂いで泣き叫ぶ声や、いとけない子供が死にかかって母親をさがす、そう云う声が好物だ。ヴィンダー 愈事は順調に・・・ 宮本百合子 「対話」
小寒に入った等とは到底思われない程穏かな好い日なので珍らしく一番小さい弟を連れて植物園へ行って見ました。 風が大嫌いで、どんな土砂降りでもまだ雨の方が好いと云って居る程の私なので今日の鎮まった柔かな日差しがそよりともし・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
出典:青空文庫