・・・必ず相当の論拠があり、研究もあって、露西亜の兵隊が何万満洲へ繰出すうちには、日本ではこれだけ繰出せるとか、あるいは大砲は何門あるとか、兵糧はどのくらいあるとか、軍資はどのくらいであるとかたいていの見込は立てたものでありましょう。見込が立たな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・途中に分捕の大砲が並べてある。その前の所が少しばかり鉄柵に囲い込んで、鎖の一部に札が下がっている。見ると仕置場の跡とある。二年も三年も長いのは十年も日の通わぬ地下の暗室に押し込められたものが、ある日突然地上に引き出さるるかと思うと地下よりも・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・戦争の気配もないのに、大砲の音が遠くで聴え、城壁の周囲に立てた支那の旗が、青や赤の総をびらびらさせて、青竜刀の列と一所に、無限に沢山連なっていた。どこからともなく、空の日影がさして来て、宇宙が恐ろしくひっそりしていた。 長い、長い時間の・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感応の習慣によって然るものなり。人の心事とその喜憂栄辱との関係もまた斯のごとし。喜憂栄辱は常に心事に従て変化するものにして、その大に変ずるに至ては、昨日の栄として喜びしものも・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ そのとき烏の大監督が、「大砲撃てっ。」と号令しました。 艦隊は一斉に、があがあがあがあ、大砲をうちました。 大砲をうつとき、片脚をぷんとうしろへ挙げる艦は、この前のニダナトラの戦役での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・「剣でも大砲でもすきなものを持ってこいよ。」「どっちでもきさまのすきな方にしろ。」どこにそんなものがあるんだい、と思いながらわたくしは云いました。「よし、おい給仕、剣を二本持ってこい。」 すると給仕が待っていたように云いまし・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・あわれに打ちくだかれた骨の正しい手当、また傷の中の小銃弾や大砲の弾丸の破片をX光線の透写によって発見する装置が、この恐ろしい近代戦になくてもよいのであろうか。 キュリー夫人は科学上の知識から、大規模の殺戮が何を必要としているかを見た。罪・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・戦争で、ムザムザ若い命を大砲、毒ガスの餌じきにされるのは誰だろうか? 世界平和を守るという不動の方針と展望の上に腰を据え、平和のための実力を充実させるためにソヴェトのプロレタリア・農民は五ヵ年計画の達成に精を出している。どう難癖をつけよ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・饒舌の無価値をはっきりと見抜き、歴史の変化する真の動機は一人や二人の政治家の女あらそいなどにかかわらず、もっと別なところ、即ちフランスの場合ではドイツに対する伝統的な対立にかかわらず、又ゲーリングの「大砲はバタよりもずっと重要だ」という一九・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・イギリスの母たちは、「わたしたちの息子は大砲の餌食ではない」と書いたプラカードを立てて整列した。 現在、地球のいくところかで戦争行為が行われている。けれども、世界の声は、何を叫んでいるだろうか、平和である。 国連は、いろいろの矛盾に・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
出典:青空文庫