・・・老夫はその肩に手を懸けて、「どうだお香、あの縁女は美しいの、さすがは一生の大礼だ。あのまた白と紅との三枚襲で、と羞ずかしそうに坐った恰好というものは、ありゃ婦人が二度とないお晴れだな。縁女もさ、美しいは美しいが、おまえにゃ九目だ。婿もり・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ ところが、その年の冬、詳しくいうと十一月の十日に御即位の御大礼が挙げられて、大阪の町々は夜ごと四ツ竹を持った踊りの群がくりだすという騒ぎ、町の景気も浮ついていたので、こんな日は夜店出しの書入れ時だと季節はずれの扇子に代った昭和四年度の・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・候とて、はじめて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀も総て虚礼なるべし、我等・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・候とて、はじめて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀も総て虚礼なるべし、我等・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫