・・・十年前に労働予備軍に加った人々の生活が低下しつつある傍ら、新しい青年層の無産者化が大量に行われつつある。それ故詳しく具体的に見れば、今日の大衆の実質の中には、画期的な多量さで知識人要素が内包されて来ているわけである。大衆の質も量も、この十年・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ アメリカは誰も知る通り大量生産だ。ソヴェトもそうだ。ところで現にアメリカでは大量生産に慊きかかっているではないかというものもあって、これは非常に興味がある。併しこれはソヴェトには適用しない。何故かというと、アメリカの大量生産と、ソヴェ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・なぜならナガサキの例をみてもヒロシマの例をみても、原爆で大量殺戮されたのは実に人民であった。軍部の暴圧をしのんで艱難な日々をしのいでいた何の抵抗力ももたないおとなしい人民の男女、老人子供たちが、日本列島を戦略地点として確保することをいそいだ・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・せるのみならず、これまでなら、上の学校へゆくほどの好学心もなく、さりとて自発的に職業の場面へ身をさらしてゆくほど積極な生活力ももたず、家にいて漫然と家事の手つだいをしているような娘さんをも、おそらくは大量に職業の場面にまねきよせるだろうと考・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ このような大量な記載もれの生じた原因は、何だったのだろうか。役所では、隣組や町会に国民調査をまかした結果として、この次は各自申告をさせる、と云っている。しかし、ただ調査のやりかたの不十分というばかりではないと思える。やはり根本には、総・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・ 一九四八年十二月に東條をはじめとする戦争首謀者たちの処刑が行われ、その犠牲において児玉誉士夫のようなファシズム文化の運動に関係ある日本のファシスト戦犯が大量に無罪釈放されて民間にまぎれこんだ。このことは、日本民主化のために重大な害悪と・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・まして、資本主義がファシズムの段階に入り、全く人民の犠牲そのものによって戦争を強行しようとするとき、まさに大量的に屠られようとする生けにえたる人民に、ファシズム戦争の本質を示そうとする者たちがあることなどはもってのほかである。「一億一心」「・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・又、スイスの時計生産を圧迫している日本製時計、自転車の大量輸出と日本の世界最低の労働賃銀のことをも知っているであろう。中国と日本とが、東洋においてどのような関係にからまれているかをも知っていよう。そういう、日本の面と、能や端午の節句や桜花爛・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ 病人は恐ろしい大量の Chloral を飲んで平気でいて、とうとう全快してしまった。 生理的腫瘍。秋の末で、南向きの広間の前の庭に、木葉が掃いても掃いても溜まる頃であった。丁度土曜日なので、花房は泊り掛けに父の家へ来て、診察室の西・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・私たちは蓮の花の近接した個々の姿から、大量の集団的な姿や、遠景としての姿をまで、一挙にして与えられたのである。しかも蓮の花以外の形象をことごとく取り除いて、純粋にただ蓮の花のみの世界として見せられたのである。これは、それまでの経験からだけで・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫