・・・仁右衛門を案内した男は笠井という小作人で、天理教の世話人もしているのだといって聞かせたりした。 七町も八町も歩いたと思うのに赤坊はまだ泣きやまなかった。縊り殺されそうな泣き声が反響もなく風に吹きちぎられて遠く流れて行った。 やがて畦・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・死んだ細君から結核を伝えられたU氏があの理智的な性情を有ちながら、天理教を信じて、その御祈祷で病気を癒そうとしたその心持を考えると、私はたまらなくなる。薬がきくものか祈祷がきくものかそれは知らない。然しU氏は医者の薬が飲みたかったのだ。然し・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・ないのはキリスト教と天理教だけである。どこにどれがあるのか、何を拝んだら、何に効くのか、われわれにはわからない。 しかし、彼女たちは知っている。彼女たち――すなわち、此の界隈で働く女たち、丸髷の仲居、パアマネント・ウエーヴをした職業婦人・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると、素直に拝んでもらっている。それは指の傷だったが、そのため評判の琴も弾かないでいた。 学校の植物の標本を造っている。用事に町へ行ったついでなどに、雑草をたくさん風呂敷へ入れて帰・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・そして吉田はその話が次のように変わっていったときなるほどこれだなと思ったのであるが、その女は自分が天理教の教会を持っているということと、そこでいろんな話をしたり祈祷をしたりするからぜひやって来てくれということを、帯の間から名刺とも言えない所・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
出典:青空文庫