・・・ いろんな奇抜な方法で雀や鴉を捕る話も面白かった。一例を挙げると、庭へ一面に柿の葉を並べておいて、その上に焼酎に浸した米粒をのせておく。雀が来てそれを食うと間もなく酔を発して好い気持になり、やがてその柿の葉を有合わせの蒲団にしてぐっすり・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・そういうとき、いかにも先生らしい凡想を飛び抜けた奇抜な句を連発して、そうして自分でもおかしがってくすくす笑われたこともあった。 先生のお宅へ書生に置いてもらえないかという相談を持ち出したことがある。裏の物置きなら明いているから来てみろと・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・これは一見はなはだしく奇抜な対比のように聞こえるであろうが、しかし自分が以下に述べんとする諸点を正当に理解される読者にとってはこうした一見奇怪な見方が決して奇怪でないことを了解されるであろうと思われる。 日本人のこうした自然観がどうして・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・の高い読物であった。その内容はすっかり忘れてしまったが、それを読んだときに身に沁みた平和で美しいフランスの田舎の雰囲気だけが今でもそっくり心に残っているようである。「闇汁会」や「柚味噌会」の奇抜な記事などもなかなか面白いものであった。こ・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・井水の温度に関する彼の説明は奇抜である。 その次に磁石の説が来るのは今の科学書の体裁と比較して見れば唐突の感がある。ただし著者のつもりは、あらゆる「不思議」を解説するにあるのであって、科学の系統を述べているのでないと思えばよい。 磁・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ 艶書だけに一方からいうとはなはだ陳腐には相違ないが、それがまた形式のきまらない言文一致でかってに書き流してあるので、ずいぶん奇抜だと思う文句がひょいひょいと出てきた。ことに字違いや仮名違いが目についた。それから感情の現わし方がいかにも・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・あの相模屋という大きな質屋と酒屋との間の長屋は、僕の家の長屋で、あの時分に玄関を作れるのは名主にだけは許されていたから、名主一名お玄関様という奇抜な尊称を父親はちょうだいしてさかんにいばっていたんだろう。 家は明治十四五年ごろまであった・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・然るに、この良民が家にありて一部の経世書を読むか、または外に出でて一夜の政談演説を聴き、しかもその書、その演説は、すこぶる詭激奇抜の民権論にして、人を驚かすに足るものとせん。ここにおいて、かの良民は如何の感をなすべきや。聾盲とみに耳目を開き・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・蕪村の句時に譬喩を用いるものありといえども、譬喩奇抜にして多少の雅致を具う。また支麦輩の夢寐にも知らざるところなり。独鈷鎌首水かけ論の蛙かな苗代の色紙に遊ぶ蛙かな心太さかしまに銀河三千尺夕顔のそれは髑髏か鉢叩蝸牛の住・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・たとえば帽子の型のある奇抜な面白味というようなものは、それを頂いている顔に漲っている知的な趣、体のこなし全体に溢れる女としての複雑な生活的な勁さ、ニュアンスなどとあいまって美しさとなるのだから、体の生活的感覚はそういうものからずっとおくれて・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
出典:青空文庫