・・・ 恋愛に面し、人によって、そとから、人生の明るい半面のみを感じ得る者、又消極のみを感じ得る者、消極を先ず見、後、そこを通して奇異な光明を認める者、等の差、類があるのではあるまいか。 彼の恋愛は、始めのものから、所謂不幸なものであった・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・が、ああいう投書をのせなければならなかったのだろうか。奇異なことであった。 選挙後、三百万票を得た党は、文化面でもひろく力を結集して文化反動とのたたかいに動きはじめた。あの投書は文学運動全体にもかかわりをもっているから、病気のために少し・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・、その他の、下じきをもっていて、その上に処方した作品をつくり出していること、或は歴史性ぬきの下じきを使用することをあやしまないならわしをもっているという事実で、むしろ、こんにちの世界文学をおどろかせ、奇異の思いを抱かせることではないだろうか・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ その写真は、すべての人々に、奇異な印象を与えた。古風な角かくしまでかぶって嫁入る花嫁や素朴そうな花婿の、指紋をとることにきめたとは、よほど泥棒でも、多勢出た村だったのだろうか。それとも、殺人とか何とかおそろしい事件で、むじつの村人のい・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・をまとめたのだが、この随談随筆の中に、修業時代からマイステルに至る間に感服して見た古典、同時代人の作品などに一言もふれていないのは、奇異な感じがした。 師匠についてのみ語っている。縮写をよくしたこと、一心に描いたこと、それだけが語られて・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・ 読者に奇異の感を与えるそのような冒頭の文句ではじまる、長文の上申書の終りは、かつての転向上申書の書式を思わせ、共産党への罵倒と「いかなる罰も天命であって人智のなすべからざるところと。そして後、新たなる魂をもって邦家のために生き抜こうと・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・と報じているが、私は市中へ出て見てまた、こうして、新聞を見て奇異な感にうたれるのであった。成程、車庫は白服でつまってそのまわりはなめたように閑静だし、罷業団は職場以外のそれぞれのところに塊まって気勢をあげている。その状態を、見事な双方の統制・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・その何か奇異な深夜の天象を、花は白く満開のまま、一輪も散らさず、見守っている。―― この花ばかりではない。第一には若葉のひろがりにしてもそうだ。この山名物のつつじにしてもそうだ。北方の春は短かく一時に夏景色になるわけなのに、この高原では・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ところが、ラジオの解説によると、戦時利得税徴収の方法と、集めた金の処分方法は私たちに極めて奇異な感じを抱かせる。一定以上の高額税は、四ヵ年支払延期の許可がある。毎日の暮しを見ていれば、僅か三ヵ月でさえ経済事情は大変化しているのに、これから先・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫