・・・ハース氏に聞いてみると、これは純粋なドイツの古習で、もとはある女神のためにささげた供物だそうな。今日では色つけ玉子を草の中へかくして子供に捜させる、そしてこの玉子は兎が来て置いて行ったのだと教えるという。 朝飯が終わったころはもうシンガ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・いつかベルリンで見た歌劇で幕があくとタンホイゼルが女神の膝を枕にして寝ている、そして Zu viel! zu viel! と歌いながら起き上がる時に咽喉がつかえて妙な声になりそうなので咳払いを一つして始末をつけたのを記憶している。専門家でさ・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・火山はしばしば女神に見立てられる。実際美しい曲線美の変化を見せない火山はないようである。火山そのものの姿が美しいのみならず、それが常に山と山との間の盆地を求めて噴出するために四周の景観に複雑多様な特色を付与する効果をもっているのである。のみ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・すなわち「ペレ女神の髪の毛」と称するものに相違ない。江戸でも慶長寛永寛政文政のころの記録がある。耽奇漫録によると文政七年の秋降ったものは、長さの長いのは一尺七寸もあったとある。この前後伊豆大島火山が活動していた事が記録されている・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・回想は歓喜と愁歎との両面を持っている謎の女神であろう。 ○ 七十になる日もだんだん近くなって来た。七十という醜い老人になるまで、わたくしは生きていなければならないのか知ら。そんな年まで生きていたくない。といって・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・地は納戸色、模様は薄き黄で、裸体の女神の像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草である。石壁の横には、大きな寝台が横わる。厚樫の心も透れと深く刻みつけたる葡萄と、葡萄の蔓と葡萄の葉が手足の触るる場所だけ光りを射返す。この寝台の端に二人の小児が見・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・あの広野を女神達が歩いていて、手足の疲れる代りには、尊い草を摘み取って来るのだが、それが何だか我身に近付いて来るように思われる。あの女神達は素足で野の花の香を踏んで行く朝風に目を覚し、野の蜜蜂と明るい熱い空気とに身の周囲を取り巻かれているの・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・そんなに織ることがすきなら、一生織りつづけているがよい、と。女神から与えられた嫉妬の復讐として、美しい織物ばかり織りつづける蜘蛛にさせられたという伝説の中には、女はいつも糸を紡ぎそれを織らなければならないということについての悲しみの感情の現・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・午後五時いまだ淡雪の消えかねた砂丘の此方部屋を借りる私の窓辺には錯綜する夜と昼との影の裡に伊太利亜焼の花壺タランテラを打つ古代女神模様の上に伝説のナーシサスは純白の花弁を西風にそよがせほのかに わが幻想を・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ 先生は、ハドソン川から紐育へ入る途中の――島に炬火を捧げて虚空に立って居る自由の女神像を御存じでございます。 又、コロンビアの大図書館の石階を登りつめた中央に、端然と坐して、数千の学徒を観下す、Alma Mater をも御存じでご・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫