・・・女が子を持てなければ去るべし、といいながら、女の妊娠期間への注意、分娩や育児への忠言は与えず、「古の法にも女子を産ば三日床の下に臥さしむと云えり」という風である。 益軒の時代は、さっき触れたような商人擡頭の時代であって、歌舞、音曲、芝居・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 子が無くて夫に別れてから、裁縫をして一人で暮している女なので、外の医者は妊娠に気が附かなかったのである。 この女の家の門口に懸かっている「御仕立物」とお家流で書いた看板の下を潜って、若い小学教員が一人度々出入をしていたということが・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・伊織は、丁度妊娠して臨月になっているるんを江戸に残して、明和八年四月に京都へ立った。 伊織は京都でその年の夏を無事に勤めたが、秋風の立ち初める頃、或る日寺町通の刀剣商の店で、質流れだと云う好い古刀を見出した。兼て好い刀が一腰欲しいと心掛・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・ ところで私もまた、『新生』が出始めた時分に、主人公が女主人公の妊娠を知って急に苦しみ始める個所を読んで、それから先を読み続けるのをやめた一人である。世間に知れるという怖れが主人公の苦しみの原因であって、初めに女主人公と関係したことは何・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫