・・・そんな風にして出来上ったのが、文学界の始まりだった。平田君の家は日本橋伊勢町にあって、星野君の家とも近く、男三郎君とは一緒に高等学校へ通って居られるという時代だった。吾々はよく、あの砂糖屋の奥にあった、茶室風の部屋に集って、其処で一緒に茶を・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・池の茶屋ではまた一日の活動が始まりかける頃であった。朝早く魚河岸の方へ買出しに行った広瀬さんも金太郎もまだ戻って見えなかったが、新鮮な魚類を載せた車だけは威勢よく先に帰って来て、丁度お三輪が新七と一緒に出掛けようとするところへ着いた。「・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・白足袋や主婦の一日始まりぬ。白足袋や主婦の一日始まりぬ。実際、ひとを馬鹿にしている。私はあの句を読んだ時には、あなたの甲斐々々しく、また、なまめかしい姿がありありと眼の前に浮んで来て、いても立っても居られない気持でした。何だかもう、あなたた・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・事によると、昔のある時代に繁茂していた植物のコロニーが、ある年の大噴火で死滅し、その上に一メートルほどの降砂が堆積した後に、再び植物の移住定着が始まり、その後は無事で今日に到ったのではないかという気がする。 峰の茶屋には白黒だんだらの棒・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・これはいずれも母音で始まり、次に子音で始まる綴音が来る。終わりのnは問題外とする。 一般に母音で始まり次にいずれか任意の一つの子音の来る場合が火山の表中で何個あるかを数えてみる。この数を N(VC) で表わす。するとこの中である特定の一・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・その結果として、空中分解の第一歩がどこの折損から始まり、それからどういう順序で破壊が進行し、同時に機体が空中でどんな形に変形しつつ、どんなふうに旋転しつつ墜落して行ったかということのだいたいの推測がつくようになった。しかしそれでは肝心の事故・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・を相手の仕事から自然の研究が始まり、それがついに自然科学にまで発達するということは全く当然な過程であると言わなければならない。 そうだとすると、昔の主権者為政者のもとに祭官、巫術師らの行なった仕事の一部は今日では彼らの後裔の科学者の手に・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・次に今日の演説は一時から始まります。そうしていつ終るか分りませんが、まあいつか終るでしょう。大概は日が暮れる前に終る事と思います。私がこうやって好加減な事をしゃべって、それが済むとあとから、上田さんが代ってまた面白い講話がある。それから散会・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・私は古来、哲学はかかる立場において始まり、かかる立場において今日まで発展し来ったと思う。ソクラテスの哲学もギリシヤ時代において懐疑的自覚の立場において始まり、自己自身を限定する実在の原理はプラトンのイデアにおいて把握せられた。しかしギリシヤ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ されば人生の道徳は夫婦の間に始まり、夫婦以前道徳なく、夫婦以後始めてその要を感ずることなれば、これを百徳の根本なりと明言して決して争うべからざるものなり。既に夫婦を成してここに子あり、始めて親子・兄弟姉妹の関係を生じ、おのおのその関係・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫