・・・チョッ、べら棒め、サーベルがなけりゃ袋叩きにしてやろうものを、威張るのもいいかげんにしておけえ。へん、お堀端あこちとらのお成り筋だぞ、まかり間違やあ胴上げして鴨のあしらいにしてやらあ」 口を極めてすでに立ち去りたる巡査を罵り、満腔の熱気・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・おまけに、勝って威張るのは月並みで面白くないというので負けそうになってから、ますます威張り出しやがった。負けながら威張るのが、最大の威張り方だと、やに下っているんだろう。もっとも戦局がこうなって来れば、もう威張るよりほかに、存在の示し方がな・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・妙に博識ぶって、威張るというのである。けれども、私から見れば、そんな陰口は、必ずしも当を得ているとは思えなかった。大隅君は、不勉強な私たちに較べて、事実、大いに博識だったのである。博識の人が、おのれの知識を機会ある毎に、のこりなく開陳すると・・・ 太宰治 「佳日」
・・・つまり、役人は威張る、それだけの事なのではなかろうかとさえ思っていた。しかし、民衆だって、ずるくて汚くて慾が深くて、裏切って、ろくでも無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずる・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・「威張るのですの。」そういう返事であった。「そうですか。」僕は笑ってしまった。 この女も青扇とおなじように、うんと利巧かうんと莫迦かどちらかであろう。とにかく話にならないと思ったのだ。けれど僕は、マダムが青扇をかなり愛しているら・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・「近頃、君は、妙に威張るようになったな。恥かしいと思えよ。いまさら他の連中なんかと比較しなさんな。お池の岩の上の亀の首みたいなところがあるぞ。稿料はいったら知らせてくれ。どうやら、君より、俺の方が楽しみにしているようだ。たかだか短篇二つ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「威張るな!」 太宰治 「親友交歓」
・・・金持ちとか、華族とか、なんとかかとか、生意気に威張る奴らがさ」「しかしそりゃ見当違だぜ。そんなものの身代りに僕が豆腐屋主義に屈従するなたまらない。どうも驚ろいた。以来君と旅行するのは御免だ」「なあに構わんさ」「君は構わなくっても・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・軍律を厳守することでも、新兵を苛めることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍人だった。それ故にまた重吉は、他の同輩の何人よりも、無智的な本能の敵愾心で、チャンチャン坊主を憎悪していた。軍が平壌を包囲した時、彼・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・この公務を取扱う人を名づけて政府の官員または会社の役員といい、この官員の理不尽に威張るものを名づけて暴政府といい、役員の理不尽に威張るものを暴会社という。即ち民権の退縮して専制の流行することなり。 今前条に示したる家内に返りてこれを論ぜ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫